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(2012.08.02)(movie)おおかみこどもの雨と雪

『おおかみこどもの雨と雪』


ただの「お涙頂戴」映画ではない。と言う話を事前に聞いていて観に行った訳なんですが、確かにお涙頂戴ではありませんでした。どちらかと言うと、色々と考えさせられる内容でした。

公式サイトやポスターとしても使われている、花が二人の子供を抱いている絵。この絵は初めて見た時から印象に残っていました。映画を観終わって、映画の内容が良い意味でこの絵から想像されるような内容でなくて良かったと思うと共に、この絵は映画を象徴するイメージイラストだと改めて思いました。

ここからは映画の内容について触れながら書いていますので、まだ観ていない方は注意して下さいね。



この映画、私は好きです。ですが、手放しで他人に勧める映画ではないんです。どちらかと言うと、映画ではなくドキュメンタリーのような展開だとも思ったんですが、やっぱり自然の中で成長する二人の姿は劇場で見て良かったと思います。

以下、手放しで勧められない理由やら思ったことやらをつらつらと。

終わり方の違和感

子供が生まれた直後に父親が亡くなって、二人を良い環境で育てるために都会から田舎に移り住んで大変な思いをして育てたと言うのに、子供がそれなりに大きくなったと思ったら、雨の方は狐の「先生」の後を継ぐとか言って山に入ってしまい、雪は中学校から寮に入って母親は山の家で一人静かに暮らすのでした、終わり。

終わった直後に「え?」と思ってしまいました。何と言うか、母親があまりにも報われなくないですか?そりゃ、雨はたまに元気な声を聞かせてくれて、雪は将来的には戻ってくるんだろうし、ちょくちょくは帰ってくるんだろうけど、それにしても大学生ぐらいの年でいきなり二人の子供を母子家庭で育てる事になって、子供は中学生ぐらいで二人とも出て行ってしまった。花は多分この時30歳は過ぎていますよね。そう考えると複雑な思いでした。

雪の語りで進む展開について

最初に雪の語りで物語が始まった時、「花って途中で死んでしまうの?」って思ったんですよね。だって、雪が全ての事柄を過去形で思い出として語っていたから。だけど、実際には父親は亡くなってしまうものの、花は山の家で元気に暮らしている状態で終わりですよね。だとしたら、この映画は、物語終了後の時間軸で雪が花から思い出話を聞いて、それを思い出しながら展開しているってこと?でも、雪って作中では完全に三人称視点だったよね?そもそも、映画後の話なら雨はどうなったの?と、色々と疑問が出てきました。 物語的には、花が主人公だと感じられる内容だっただけに、雪の語りで進む展開の意味を考えてしまいました。

田舎への引越しについて

この映画って、大自然の中ですくすくと育つ雨と雪の姿と動きを見るだけでも十分な価値がある映画だと思うんですよ。実際、その描写に多大な時間と労力が払われていたと思うし。それに自然の中を3人が跳んだり跳ねたりするシーンは純粋に見ていてとても楽しいものでした。

そんな中で、個人的にこの映画で一番印象に残ったのは、花が田舎への引越しを決める理由。子供の将来の道を子供達自身で選べるようにする為なんですよね。花の都合や、田舎は空気が良いからとかじゃなくて。しかも、人間として育てるんじゃなくて、人であり狼でもある2人を、どちらか一方に決めつけないままで育てる。上手く言えないんですが、「あぁ、花はこういう考えなんだ」って思ったんです。

そして、狼の末裔だけど人間として暮らす男と人間の女性、その間に生まれた二人の子供が、一人は人間として、一人は狼として生きる道を選んだ。この事が何の比喩として描かれていて、監督は何を語りたかったのか、それは色々な意見があると思います。だけど、可能性を狭めずに居て、時期が来れば自然と自分の道を選んでいるような状況を作る。と言う花の考え、その過程、その結果を映画として観れて良かった。

細田監督作品の女性について

この映画って、独身のオッサンが観るよりも子育てを経験している人が見るほうが多分共感出来ると思うんですよ。

だけど、実際に子育てをしている女性に積極的にこの映画を勧めようとは思いません。と言うのも、この映画の中で母親役である花は本当に苦労していますよね。大学生前後~30歳ぐらいの時期の本当に全てを2人の子供の為に費やして尽力しています。確かに本人は笑顔でそしてパワフルに活躍していますが、楽しさより苦労の方が多いように見えています。

そして、作中での花がスーパーキャラ過ぎるんです。自室での出産から始まり、2人のおおかみこどもを相談相手も居ないままに育て上げるだけでも本当にすごいのに、家事全般、田舎暮らしで畑を耕したり、雪のワンピースを縫ったり、屋根の修理をしたりしながら仕事もこなしている。映画として見ている分には面白いんですが、正直こんなの独学じゃ無理!!って思ってしまいます。映画にそんなツッコミを入れる事自体が野暮だと言うことは重々承知しています、が。

同じく細田監督作品の「サマーウォーズ」で実家に親戚家族が集まって、その中で男性陣がワイワイと好き勝手にやっている横で、女性陣が料理等の実務をして、お葬式の時には男性陣が浪漫に生きる中、女性陣は葬式饅頭の手配を心配する。ここ、私の視点では「あるある」的な微笑ましいシーンなんですが、多分実際に同じような事を経験した女性視点だと、実体験が思い出されて楽しい気分ばかりでは見られないシーンかもしれません。年の節目に一つの家に複数の家族が久々に集まった時はなんとも言えない独特な空気がありますもんね。

このシーンって、男性陣は女性陣の気も知らないでお気楽なもんね!と言う風にも取れますが、女性陣の支えがあったからこそ話が上手く回っている、って事を強調するシーンだと思うんですよ。誰かどういう役割をするべき、と言う意見ではなくて、客観的にこの役割の人が上手くやってるからこそ、この役割の人がこう立ち回れたんですよ。もっと言うなら、女性陣の実務にスポットが当てられるだけの物語と舞台のある映画だと言えるかもしれません。だって、お盆で集まった親戚家族の女性陣のやりとりしかスポットを当てる場所が無いのなら、それは単なる昼ドラですもの。

話は戻って、花が何でもこなしちゃうスーパーキャラな件についても多分、「女性はかくあるべき」と言う決め付けなんじゃなくて、「こんなに頑張っている花が純粋にカッコいい」であり、この花の頑張りがあったからこそ、2人が育ったんだって事を強調したいて言う素直な意味で取ればいいのかな、と。

草平の母親の声について

林原めぐみさんのファンを自称する私ですが、スタッフロールを見るまで草平の母親の声が林原めぐみさんだと気づきませんでした。確かに、「この映画の中では珍しく声優らしい声で、なおかつ上手いな」とは思いましたが。ですが、普通の母親役を違和感無く上手に演じられるって本当に上手い証拠ですね。ヒロインのような特徴のある演技が求められる役より、脇役を脇役としてしっかり演じる事の方がずっと難しいと思います。しかし、林原さんが普通に母親役を演じていると感慨深いものがありますね。碇ユイ等の配役もありますが、「○○の母」のような役で起用されて、尚且つ違和感が無いのだな、と思うとね。

自然の描写について

ところどころで挿入される自然の描写がすごく綺麗でした。描いたのか写真を加工したのかは知らないけれど、綺麗な自然描写はこの作品の良さを引き立てていると思う。山や川や雪や空。日本のどこかにあるだろう自然をある意味自然本来よりも綺麗に幻想的に描いているような気がしました。

最後に

映画ポスターの、花が雨と雪を抱いているポスター。作中ではこんなシーン無い、と言うか、雨と雪がこれくらいの頃はこんな綺麗なワンピースを着る色んな意味での余裕なんて無かったんだろうと思うと、二人の子供を両腕に抱えて誇らしく立っている花の姿にこみあげてくるものがあるんです。

さて、この映画は特に見た人によって感じた事が違う作品だと思うので、自分の感想を落としこんだ後に他の人の感想を見るのが本当に楽しみ。

最初、箇条書きで書いていると細かいツッコミが沢山挙がったんだけど、そんな瑣末な事は実はどうでもよくて、自然の中ですくすくと育っていく雨と雪、そしてその成長を支える花のスーパーお母さんぶりを眺めているだけで幸せな映画なんです。




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