Marumaru's TinyPlaza

(2014.05.31)(book)志乃ちゃんは自分の名前が言えない

『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』/押見修造


言いたい言葉は頭の中にある。だけど、その言葉を口から出そうとすると、つっかえてしまって上手く声にならない事が自分で分かっている。それでも、その言葉を言う必要があるから、無理に出そうとすると、唇は動いても音が出てくれない。

だから、言葉を口にする前に頭の中で文章にして、つっかえる言葉なのかどうかチェックする。つっかえる言葉だったら、言い換えたり、順番を入れ替えたりして、「つっかえない文章」にしてから口にする。

そんなのは物心ついた時からの癖で特に特別な事でも何でもない。それが言葉を話すと言う事。

世の中には、決まったタイミングで決まった言葉を口から出す事を求められる瞬間って言うのがある。例えば、挨拶だったり、自分の電話番号だったり、本の音読だったり、……自己紹介で言う自分の名前だったり。

決まったタイミングで、決まった言葉を口から出さないといけない。だけど、その音を口から出そうとするとつっかえちゃうのが自分で分かる。でも、言わないといけない。その事が分かった瞬間、頭の中が「決められたタイミングで決められた音を出す」事で一杯になって、他の事が考えられなくなってしまう。

自分の名前を言う時に「えっと…」って前置きをするのは、自分の名前が思い出せないからじゃなくて、自分の名前を伝えたいから。

授業で問題を解くように指名されて、答えは分かっているのに、頭の中にあるのに、言葉が出てこなくて、少しの沈黙の後に「わかりません」って言う。不思議と否定の言葉だけはすっと口から出て来てくれる。


大人になるにつれて言葉の出し方も、心の受け止め方も上手になった。だけど、子供の頃はとても怖くてしょうがなかった。

だから、もしも話す時につっかえている子供に出会ったら、目を見つめて「大丈夫。私は逃げないから。あなたの話を聞かせて」って言ってあげて下さい。

話したくないんじゃないんじゃなくて、話したい事はあるのに言葉が口から出てこないだけなんです。




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