Marumaru's TinyPlaza

(2015.05.27)(book)燃えよ剣

『燃えよ剣』/司馬遼太郎


何を今更って感じのタイトルです。学生時代に周りで司馬遼太郎ブームが来ていたんですが、当時歴史小説にはあまり興味が沸かなくて読んでなかったんです。今回、Twitter絡みで紹介されて、興味が沸いて読んでみました。

箇条書き風に簡単な感想を。

幕末の新撰組を、副長の土方歳三を主人公に書いた話です。

新撰組って、昔NHKのアニメでやっていた「飛べ!イサミ」で得た知識ぐらいしか無かったんですが、池田屋事件って新撰組の歴史からするとかなり序盤だったんですね。この事件で活躍したからこそ新撰組の名が世に轟いた的な。

喧嘩師を自称する歳三の生き様が格好良いですね。新撰組のNo2として実働隊に対する指揮権を握り、新撰組という団体を大きく、強くする事に尽力し、人生に美しさを求める姿勢。主人公補正もあるとは思いますが、土方歳三が今でも人気がある理由が分かりました。

新撰組3人組の他二人と比べるとこの辺りが引き立つと思います。近藤勇は、トップとしての力量はあるのに政治に傾倒しすぎていたり、戦国時代の「大名」然と振舞う事に固執していたりしながらも、憎めない愛されキャラとして描かれている。

沖田総司は軽口を叩くおちゃらけ2枚目、だけど空気を読んで立ち振る舞いは間違えない。そして、前半は活躍するも後半はずっと病床に臥せってる病弱キャラとか。男性の病弱キャラっていうのは珍しい気がした。

そして、お雪さんと最後の逢瀬をした後の、歳三の生き方がもう……。新撰組初期メンバーの近藤・沖田に先立たれ、押し寄せる近代化の荒波に揉まれながら、一人の喧嘩師として美しく終わりたいという、死に場所を探すような行軍。土方歳三の最後ってこんなんだったんですね。映画の「ラストサムライ」の最後もこの辺りに影響を受けているのかな?

しかし、ガトリング砲に向かって単身で向かって行く剣士という構図は、時代の移り変わりを象徴する場面だと思います。己の技と心(作中の言葉で言うなら"気組")を鍛えて臨む一対一の勝負から、兵器の性能が勝敗を分ける近代戦への移り変わり。そして、突っ込む側もただの特攻ではなくて、それまでの思いの積み重ねがあるからこそ、余計に映える場面です。

ただ、面白いのは、歳三自体は近代戦に対してむしろ肯定的な立場なんですよね。最終的な白兵戦においては個人の技量と心意気を重視するけど、それまでの「勝利する道理」に関しては、西洋式な方法を積極的に採用している。このあたりの柔軟さを併せ持っているあたりも人気も一端なんでしょうか。

と、当たり障りの無い感想を書いてしまいましたが、読んでいて一番ワクワクしたのは、お雪さんと歳三の関係でした。特に最後の二泊三日の愛の逃避行。お雪の「雪は、たったいまから乱心します」という台詞に雪の芯の強さ、甲斐甲斐しさ、そして茶目っ気が集約されている気がしました。こんな台詞言われてみたい。

この、お雪さんとの純愛ストーリーって、序盤で歳三の多少歪んだ性癖について語られていたからこそ、そのギャップで余計と引き立っている部分もあると思う。

しかしあれだ。新撰組って、乱世のヒーロー的なイメージを持っていたんだけど、割と斬りまくりの集団だったんだね。この本が、土方歳三にスポットを当てて描かれているからまだしも、客観的な新撰組としての物語だったら、もっと凄惨な話になっていたんだろうな、と。

何にせよ面白い物語であった事に違いは無いです。




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