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(2016.09.24)(book)ドッグファイト

『ドッグファイト』/楡周平


フィクションという事で名称は変更されているものの、ヤ○ト運輸(作中名:コンゴウ)とamaz○n(作中名:スイフト)のお話。

スイフトの配達を一手に引き受けるコンゴウが、物量を盾に執拗な値引きとサービスを要求される現状に痺れを切らした若手が、起死回生の策を講じるというあらすじ。

フィクションですが実情をよく調べて勉強した上で書かれている印象。ネット通販業界の事も、運輸業界の事も、過疎と高齢化に悩む地方の事も。

ストーリーも、現在の業界模様を踏まえつつ、起死回生の秘策を講じたコンゴウによってもたらされる明るい近未来といった感じで、面白かったです。海外資本の血も涙も無い効率主義によって食い散らかされ、自らの足を食べるような状況を強いられる運輸業界が、商いの原点に還った手法によって明るい未来を築いていくってストーリーは、最終的にちょっとご都合主義を感じたものの、惹き込まれる内容でした。

そして登場人物もキャラクタが立っていて分かりやすく、特にスイフトのやり手女性執行役員とコンゴウのちょっと頼りない課長の対決という構図はベタですが盛り上がりました。(逆転裁判の成歩堂龍一VS狩魔冥辺りを想像してもらえば分かりやすいかと)そして、この女マネージャーである堀田の書かれ方が上手い。悪役として描かれているのに、どこか憎めない良いキャラクタでした。

こういった話を読むたびに思い出すのが、漫画「いいひと。」で主人公の北野優二が言っていた言葉で(詳細は違うと思いますが)、「モノには売る人も、買う人も、流通の人も、モノにかかわる人がみんな幸せになる価格があるんだ」と言う台詞。安さはとても分かりやすい説得力を持った基準で、安さを越える優位性を示す事は難しいけれど、度を越えた安さを実現する為には何らかの理由があって、それは回り回ってみんなの幸せを蝕むものなのかもしれません。モノを売ることで、モノに携わる人みんなが幸せになれるって、本当に素敵な事なんですよね。

それと、コンピュータやネットによる効率化の恩恵は計り知れないものがあるんですが、状況によっていはアナログの方が良い部分があるのは実感として思っているところです。この話では、その部分をとても分かりやすく描いていました。システムで作業の効率化を図るのは気持ち良いんだけど、人が少なくて、パソコンや携帯端末を使う人がすくない状況だと、アナログの方が何かと便利な時って多いので、その辺りをTPOに応じて使い分け、上手く組み立てて行く事について考えさせられました。

純粋に読み物としてとても面白かったので、機会があれば是非読んで貰いたい一冊でした。オススメです。




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