Marumaru's TinyPlaza

(2020.01.21)(book)安楽死特区

『安楽死特区』/長尾 和宏


新年明けまして……と言うには鏡開きもとうに終わってますね。今年も何卒よろしくお願いいたします。

さて、新年早々穏やかではないタイトルの本ですが、例によって新聞の広告で気になったので図書館でリクエストしました。


2024年という遠くない未来に「安楽死法案」が成立し、東京都内に設けられた特区の中で安楽死が合法化した世界を描いたお話。その特区の中で安楽死に携わる医者や政治家、認知症が始まった人など色々な立場の人を描いています。

この作家さんはお医者さんという事で、小説なんですが、新聞や雑誌の取材記事を読んでいるかのような読みやすさです。

様々な立場の人の意思を尊重し、苦しくない最後を迎える為の安楽死。法整備が整えられ、セレモニーのように粛々と、一方でお祭りのように盛り上がりながら、その時を迎えますが、人の死というのはそんなにも割り切れるものではない。

本の内容と一部かぶりますが、私自身の考えとして安楽死には賛成です。老衰で周りに看取られながら死ねるなどとはよもや思っていないので、死ぬときは死ぬほどの苦しみがともなうであろう中で、怪我や災害、病気、そんなものでもがき苦しみながら死ぬ事を自分の運命として受け入れられる程、心が円ではありません。

なので、苦しんで死にたくないという思いもある半面で、将来どんな事があろうとも、自分の意思において安らかなに人生の幕を引けるという精神的なセーフティーネットとしても必要ではないかと思うのです。どんな事があろうとも、最終的には安らかに旅立てる。そんな安心が担保されているから、日々を頑張れるという気もしています。

将来何があるか分からないからこそ、今この時を全力で駆け抜け、心を燃焼させるのだろう。と言われれば返す言葉もありませんが。

この本は、安楽死が認められた近未来における安楽死の失敗を描くことで安楽死に異を唱え、ホスピスで行うようなターミナルケア(終末期ケア)のもと自然に果てていく事をよしとしているように読み取れました。が、それが出来るのは、ある種とても贅沢な事であって、そういった意味も含めて安楽死という選択肢が提示されていたのに、最後は安楽死に反対して、ターミナルケアを良しとして綺麗にまとめていたのには違和感を覚えました。

別にどっちが良い悪いという話ではなく、ターミナルケアも安楽死も、選択肢の一つとして共存する事はダメなのでしょうか。実際にそうなると、よく物語であるような『「おじいちゃんはまだ死なないの?」という素朴な疑問を子供から受ける』というような薄ら寒い状況になるのかもしれません。

ですが、安楽死も含めて、自分の最後を決める権利だけは自分から決して離れてはいけないものであって、その権利に含まれる選択肢は多い程に良い、と私は考えるのです。




<(2019.12.31)鍋とか (2020.01.23)ミュシャ展、天気の子展に行ってきた>