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(2011.04.22)(book)図説 英国メイドの日常

『図説 英国メイドの日常』/村上 リコ


漫画、エマの「エマヴィクトリアンガイド」を書かれた村上リコさんの本です。メイドに興味があって調べたいと思っている人にとって、以前にサイトで感想を書いた『英国メイドの世界』が教科書だとするなら、この本は資料集。そんな本です。

『英国メイドの世界』は使用人としてのメイドの種類と社会的な立場、役割を徹底的に解説した本であるのに対し、この本はその名の通り、メイドの視点で見た日常を図を多用しながら解説してくれます。

以下は目次の引用なんですが、こんな感じの内容が詰まった本です。もうね、章題を見るだけでワクワクするような内容です。

序章 メイドの素顔
第1章 メイドの居場所
第2章 メイドの旅立ち
第3章 メイドの仕事
第4章 メイドと奥様
第5章 メイドと同僚
第6章 メイドの制服
第7章 メイドの財布
第8章 メイドの遊び
第9章 メイドの恋人
第10章 メイドの未来

村上リコ|図説 英国メイドの日常,河出書房新社


何が良いって、この本は"図説"の名の通り、写真や図が豊富で眺めているだけで楽しい本なんです。写真の解説がしっかり入っていて背景をしっかりと学ぶ事が出来るんです。英国の歴史やメイドについて文章で書いた本は数多くあっても、フルカラーで写真や絵を見られる本と言うのはなかなか無いです。

働く姿や集合写真でのメイドの写真や図は見た事があっても、当時の風刺画や広告に描かれたメイドさんを見るのは初めてだったので興味深かった。

しかし、メイドさんについて調べれば調べる程、『エマ』の時代考察のすごさに驚きます。作者本人がメイド好きだからこそ描けた漫画だと思う。

この本を眺めていて、学生時代に世界史を勉強している時、教科書はあまり読まなかったけれど、資料集をずっと眺めていて「ゴシック建築かっこいいなぁ……ランス大聖堂いつか行ってみたい」と思いを馳せていた時の事を思い出しました。


ここからは本の感想とは直接関係ないですが、90年代後半から00年代前半にかけてゲームや創作の分野を中心にメイドブームが起き、それがメイド喫茶やコスプレと言う形で実際の世界に登場し、『エマ』を先駆けとした原点回帰の史実に基づいた真面目なメイドに脚光が当たり、その地盤を固めるかのように過去の資料をまとめた真面目な考察本が次々に出版される……。その流れを考えると胸が熱くなるものがあります。

今までずっと好きだったものが、急に脚光を浴びて面白おかしくメディアに取り上げられて微妙な気持ちになる。歌手なり漫画家さんなりを通じて誰しもが似たような経験をした事があると思います。何と言うか、今まで自分が好きだった気持ちが希釈してばら撒かれたようなモヤモヤした気持ちになるんです。

でも、自分が好きな”それ”は決して自分のものじゃないんだ。好きで色々追いかけるのは勝手だけれど、(公序良俗に反しないものであれば)どんな形であれ多くの人の目に触れて裾野が広がる事を毛嫌いしてはいけないと思う。

多くの人の目に触れる事で、たくさんのものが生まれて、深く掘り下げて調べる人も増える。そして関わるお金も増えるから、新しいものが生まれやすくなる。その結果として、自分が好きなものに対する選択肢が増える。これって本当に良いスパイラルです。無いものを必死で探すより、溢れんばかりのものから自分の好きなものを選べる方が楽しいに決まってる。

90年代後半、世間にメイドが溢れた時、メイド好きな自分は全力で食いつきました。だけど、探し方が悪かったのかもしれませんが、次第に何か違うようなものが増えてきました。同じ"メイド"と言う言葉に対するイメージが自分の中とそれ以外の間で乖離していく感覚を覚えました。

それから、心の中では好きだけれどもその事をあまり公言しないし、あまりする必要もないと考えていました。普通に考えていい年した人がメイド好きを公言していても気持ち悪いだけですしね(笑)

そして、時代が巡り所謂メイドブームのようなものが一段落して、何かが違うと感じていたもの達は表舞台から影を潜めていき、後には真面目に深く研究を続けていた人の苦労の結晶が花開いていた。

その結晶のうちの一つが、間違いなくこの本であると思うんです。

私は、一介のメイド好きで、好きだという気持ちを持ち続けていたに過ぎませんが、その好きな気持ちを突き詰めて形にされた方々には心から感謝と尊敬の念を感じずにいられません。本当にありがとうございます。




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