Marumaru's TinyPlaza

(2011.09.22)(book)殺戮ゲームの館

『殺戮ゲームの館』<上><下>/土橋 真二郎


生贄のジレンマ扉の外に続いてここに書くのが3冊目になる土橋真二郎の作品。完全にお気に入り作家です。

とある大学のオカルト研究会一行11人が、ネットで見つけた集団自殺の舞台となったと言う廃屋に合宿がてら訪れる事になり、やっと廃屋を見つけるがそこでフェイドアウトしてしまう意識。目が覚めた時、一行は密室となった廃屋の中だった。そこから始まる生き残りをかけたゲーム。そんなあらすじの小説。

この人の書く話は一貫して「極限状態における人間の心理」というテーマが根底にあるんです。そして、その状態は社会の縮図であり、そこで晒されるむき出しの裸の心こそが人間の本性であり、とても美しいものだと言う事をゲームを通じた登場人物のやりとりで描こうとしているんだと私は思います。

この話も例に漏れず密室状態で行われるゲームを軸に話が進んで行く訳ですが、このゲームのルールが秀逸なんです。与えられるルールが少なすぎて、一見すると運の要素が多すぎて、理論的に勝利条件を満たすことは無理なんじゃないの?と思わせておいて途中から追加される新しいルールを巧みに使った立ち回りは本当に感心します。

ゲームにおけるルールの全てが最初から全て提示されず徐々に追加される展開(と言うか、犠牲を出しながらゲームを進めて正しいルールを主人公達が見つけ出し説明する展開)については釈然としないものもありましたが、序盤の少ないルールしか提示されていない状態下での他人の心理を利用した「負けない立ち回り」が堪能出来たので個人的にはありでした。その方が話も盛り上がりますね。

それにしても相変わらずこの作者は構成の割り切りが良いです。「この小説で描きたい事は、このルールを使った心理ゲームなのだ。」と言う確固たる意思をひしひしと感じます。何故なら、それに至る展開もゲームを裏で糸引く黒幕も殆ど描写されていないんですよ。多分、そこは読者がそれぞれ好きに想像して補完すれば良い部分なんでしょう。

ストーリー的には主人公である藍以外の登場人物の行動の動機が少し説明不足に感じる部分はありました。ゲームの展開を進める上で必要な行動の情報は提示されているのですが、何故その行動に至ったかのバックボーンの説明が少ないので、結末を読んでも「あ、そうなのね」で終わってしまうのが残念。なので、ミステリと捕らえて犯人当てをするのはほぼ無理なんじゃないかなーと思いました。別にミステリとして読んでいないので良いですが。

逆に主人公で探偵役の藍の活躍は十二分に描かれていました。女子高校生でクールで理論的なヒロイン、だけど時折見せる感情がとても可愛らしい。ベタな設定ですけれど良いものは良いんだ。と言うか藍さん少し頑張り過ぎですよ。


これ系の話が好きなら読んでみて。としか言いようの無い作品ですが、上下巻で頁数も多くないのでさくっと心理ゲーム展開を味わいたい人にはお勧めです。

今まで読んだ土橋作品の中では、「生贄のジレンマ」>「扉の外」≒「殺戮ゲームの館」かなぁ。生贄のジレンマは全体的に見て完成度が高いと思う。




<(2011.09.19)アカム討伐 (2011.09.27)(music)silky heart>