Marumaru's TinyPlaza

(2020.07.29)(book)りゅうおうのおしごと!

『りゅうおうのおしごと!』(12巻まで)/白鳥士郎


名前だけ知っていたんですが、夜にたまたまニコニコでアニメ版の一挙放送がやっていて途中から観たところ、面白くて原作を読みたくなった作品。

「あり得ない設定だけどフィクションだからOK、と思っていたら現実がフィクションを超えた!」と藤井聡太棋聖絡みで作者のツイートがしばしば拡散されているイメージでした。

で、読んだ感想なんですが、とにかく熱い作品でした。主人公の八一を始めとする、作中の言葉を借りるなら「将棋星人」達の異次元な戦いの描写も当然面白いんですが、それよりも、「普通の人」達の戦いが本当に熱いんです。

上には異次元の将棋を指す天才がひしめいている、下からは次代を担う若き天才たちが押し寄せてくる。年齢よりも過去の経歴よりも今の強さ、将棋の結果だけがモノを言う勝負の世界で、時に同じ釜の飯を食った友を、共に鎬を削ったライバルを、育ててくれた人を斬り捨ててでも勝たないといけない。天才ではない普通の人が、それでも将棋が好きだから。将棋を通じて何かを伝えたいから、という想いを抱いて、全てを投げうって泥臭くただただひたすらに戦う姿は本当にこみ上げてくるものがありました。

一部現実の棋士をモチーフにしているところもあると思いますが、フィクションならではの個性的な棋士達が要る中で、結局は勝負で勝たないと何も始まらない、言葉に説得力が持てない世界の中で、将棋を盤上の戦いを通じて語り合い、ぶつかり合い、恋をする。そんな人生の全てを将棋にかけた人達の勝負の世界、その光と影を描いた話でした。

それにしても、なんとなくで知っていた将棋の奨励会。4段昇格がプロ棋士になれるその会の3段リーグを勝ち抜く事の厳しさについてかなりの頁を割いて書かれていた気がします。後で調べて分かった事ですが、ニュースでよく名前は見かける実在の女流棋士である里見香奈4冠(倉敷藤花 のイメージが強い)も、女流の世界では4冠を獲るぐらいに勝ちまくって敵無しでも、奨励会の3級に在籍した5年の間での4級昇格能わず、年齢制限で奨励会を退会されているんですね。

その辺りの奨励会の厳しさや女流棋士システムの意味や良し悪しについても物語の中で書かれていて、今まで何となくは知っていたんですが興味深かったです。結局は勝たないと始まらない勝負の世界と言うのと、業界として将棋人口を増やして盛り上げないといけない事、その為にプロを始めとして関わる人みんなで間口を広げて行こうという色々な部分の兼ね合いがある難しい問題なんですね。

しかし、全体的にロリコンネタとネットスラングのネタがちょっと強い印象を受けました。私は分かるから良いんですけど、知らなくても読み飛ばせる部分なのかな?と思ったりもしたんですが、もともと何でもありのライトノベルだからあまりどういう言うのも野暮なんでしょうね。私も昔、あかほりさとるとかのゆるいファンタジー小説を読みながら楽しんでいたので、時代は巡るって事なんでしょう。

12巻まで読みましたが、当初は5巻完結だったようで5巻までは主人公の内弟子、まいを中心としたお話。12巻までは姉弟子である銀子の奨励会を中心とした話。そして今度出る13巻ではその二人との三角関係に発展しそうでそちらも楽しみです。余談ですが、ヒロインが二人出て翼に例えられると、どうしてもマクロスFを思い出してしまいます……。

最後にちょっと内容に関する事ですが、11巻の封じ手は割と効きました、自分に。それとキャラクターでは普通の人代表の桂香さんの心の強さが好き。彼女に酷い事を言って凹んでいる鏡洲に言った「将棋と比べてもらえるなんて彼女は幸せ」という旨のセリフが彼女の強さと優しさを象徴しているな、と。




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