Marumaru's TinyPlaza

(2021.02.27)(book)VRおじさんの初恋

『VRおじさんの初恋』/暴力とも子


人の印象は最初に見た目から受ける印象で大きく決まって、次に声で殆ど決まってしまうと思っている。

その人の考え方や気持ちと言うのは第一印象で大きな輪郭が出来てから、その中を埋めるような形で情報として追加されるもの。その人に対する立場や役職、そんな事前の情報を知っていれば輪郭は更に太くしっかりしたものになってしまう。そう思っていました。


25年ぐらい前。私がインターネットと出逢うまでは。


初めて触れたネットのチャットは、リアルの性別も、外見も職業も関係なく、ただただお互いの気持ちだけが言葉になって流れていました。リアルだと第一印象を構成する要素足り得る多くのものが存在せずに、むき出しの気持ちが流れている空間。それはとても魅力的で刺激的でした。

だから、そんな空間を通じて知り合い、仲良くなった人は、まず最初にお互いの心から知り合って繋がっている関係。リアルの関係とは別次元の特別な関係に感じたりもしました。

オフ会と言う特別な響きに心を騒がせながらネットで知り合った人とリアルで会う経験して、ネットとのギャップに驚いたり、喜んだり、悲しんだりしながら、それでもネットの空間と現実の世界が重なる体験に興奮する気持ちが一番大きかったのを覚えています。

今ではもうネットは便利なツールの一つと言えるぐらいに普及し、連絡先の一つのような扱いになっていますが、それでもテレホタイムが始まって、ダイアルアップの音色が未だ見ぬ広大な世界へ誘ってくれる詠唱のように感じた当時のときめきをたまに思い返しては、綺麗な想い出の輪郭をなぞってみるのです。


閑話休題。

いきなりポエムから始まってしまいました。

おじさん同士がVR空間で出会うっていう字面だけ見ると地獄のような話ですが、とても気になっていてWeb版からずっと追いかけていた話がついに書籍化しました。

リアルがオッサン同士の恋バナってことでBLな感じもするんですが、私はBLには興味がないです。と言うか、この話はBLではない。

冒頭でも書きましたが、リアルの性別その他諸々を排したネット(VR空間)で出会った関係と言うのは、本当にお互いがお互いの剥き出しの気持ちの部分から知り合った、とても特別な関係だと思います。男性だから好き、女性だから好き、肉体関係を持ちたい、そういう関係ではなくて、(そういう関係を否定するつもりは全くありませんし、それが普通の感情です。)一緒に居たい、一緒に居ると気持ちの欠けた部分が埋まるような、そんな言葉にならない関係なんです。

リアルの関係だとどうしても話題に挙がる、学校の事、仕事の事、家族の事、人間関係の事、そういう現実世界に引っ張られて付随する話題の一切合切を置いておいて、嬉しい、楽しい、とか感情的な部分で話が出来る関係。やっぱり特別です。

私はVRはまだ殆ど経験が無いですが、MMORPGは一時はまっていました。MMORPGだと自分のアバターとしてのキャラクターを作るので外見的な印象は発生しますが、外見を変える事が出来るので、そのアバターの外見の持つ情報と言うのは絶対的なものではないです。

Webチャットにおいて、気分で発言文字色を変えるように、MMORPGにおけるアバターの外見もある程度の決まりはあるとしても絶対的なものではなく、自分の気持ちの延長線上に存在するもの。つまり、外見がありきの内面ではなく、内面の気持ちを表現する為のアバターの見た目です。

この作品ではVR空間の中でお互いが所謂ネカマな状態でおっさん二人が女学生とグラマラスなけもの耳キャラになっていますが、(露出度に関するツッコミはあるものの)その姿については割とスルーされてるのが、とてもネットらしくて、自然だなぁと感じました。

VRは特にそうなんでしょうが、外見にはそんなに意味は無いんです。可愛いからこのアバター、格好いいからこのアバター、そんな気持ちを反映させただけの器。

そんな、自分にとってはネットで体験してとても理解出来る感覚なのだけれど、その感覚をもっともっと強く実感出来るであろうと信じて疑わないVR空間での気持ちのふれあいを描いたこの物語は、近い未来確実に訪れる、人によっては既に結構前から体験している、現実が舞台の話として楽しんでいました。

そして書籍版を読んでの本編最終話と追加収録のエピローグ。リアルの一切合切を取り払った空間で出会い過ごした関係において、一番大切なものは何か。これって実際の人間関係においても同じだと思うんですが、気持ちから最初の知り合ったVR空間で語るから、余計にその純粋さが際立っているように感じました。

最後になりましたが、書籍版を読んで一番感動したのは表紙のカラーイラストでした。白黒で描かれたWeb漫画がVR空間の心のふれあいだとしたら、書籍(DL版含む)という器がついて現実世界に存在する事になって、気持ちが形になって出現した輝きを感じるような素敵なイラストでした。



義実たか ヤる時はあっちの姿を選んでいる、っていうのはつまり、
あっちの方が良い、と二人とも思っているんだろうな、と。
転じて。
誰もが望んだ姿を得られるのなら、つまり外見や能力、ステータス
に個性はなく、個を決定しうるのは…なんなのだろう。

そう考えると、1部で通り過ぎようとする車を追いかけた事。
2部最終話、オッサンの姿でありがとうと言った事。

VRが美しいからこそ、「そうではない」リアルの二人が尊く思えた
ものでした。


エピローグ、頑張っているナオキが、もう、ね。 (2021/03/16 00:01:14)


<(2021.02.21)オンライン同人音楽即売会(ミュートピア)に一般参加した (2021.03.21)(book)あんじゅう>