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(2025.07.08)(book)バカ女26時

『バカ女26時』(10話まで)/遠野めざ/彩乃浦助


友人に勧めて貰った本。いやー、漫画読みの人が自分の好みを考慮して勧めてくれる作品が面白くないわけがない。自分では発見できなかったであろう作品を教えて貰える喜び。

話ですが、まず1話の掴みがすごかった。主人公アツコが腐れ縁の女友達ユリと深夜のファミレスで愚痴を聞いてる、というよくある話かと思えば、愚痴を聞かされているアツコは実はユリの旦那を殺していた――。まるでミステリ小説の冒頭を思わせるような始まり。Webコミックと言う事で気楽に読み始めたら、がっつりと心を掴まれました。

そして、そこから始まる二人の逃避行、行き先はベトナム!私、逃避行モノって大好きなんですよ。逃避行に振られた「バカンス」のルビはまさに言い得て妙でした。

逃避行の魅力と言えば、今まで住んでいた場所や慣習、そして人間関係のようなものを一度リセットして新しい場所へ赴く事で、新しい世界・文化・価値観に触れる事が出来る。その新しさが自分にフィードバックされ、今までの自分を覆っていた殻を壊してくれる。そんな新天地での厳しくも刺激的な旅路の物語が好きです。

更にこの物語のアクセントは、逃避行先でお世話になるアツコの知人フートゥイ。この人が規格外のお金持ちで男女関係にも奔放な、既存の価値観に縛られない人。フートゥイが関わる事で二人の逃避行は更に加速する。既存の知り合いが誰も居ない異国の地で、二人の女性が今までとは全く違う世界の中を駆け抜ける。そのギャップが読んでいてとても心地よかった。

そして、そんな中で明かされていくアツコの過去。勢いだけで飛び出したように見えた逃避行の裏に隠された意図。そんな中で突如生まれるユリの嫉妬。謎を孕んだまま怒涛の勢いで進む物語。

ところで、この話、逃避行と言うからには二人一緒に逃げている訳なんですが、この二人の女性の関係は百合と言っていいんだろうか。結論を言うと百合だとは思うんです。が、現状は百合要素を堪能するよりも物語の怒涛の展開について行くのでいっぱいいっぱいな感じ。

余談ですが、タイトルの『バカ女26時』の26時が作品の内容を象徴していて面白いな、と。同じように深夜の時刻が入ったタイトルは色々とありますが、当然その時刻によって表現される内容が違ってきます。

例えば、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの『24時』これは、一日が終わり眠りにつく前の時間に今の自分を振り返りながら、明日や将来の事について思いに耽っていたら眠れなくなったという、まだ今日が続いている時間の歌です。

次に、キンモクセイの『車線変更25時』では深夜の時刻を自分の年齢に例え、深夜に道を疾走する感情を語りながら、大切な物事が今まさに分水嶺を迎えており、新しい道に向かって走り出す情熱を歌っています。

漫画では、てぐれ(絵)/ぎどれ(話)の『27時のシンデレラ』という作品があります。イラストレーターを志望する青年が、偶然出会ったVtuberの中の人との関係を描いています。主人公は彼女のメンヘラ気味で小悪魔的な仕草に翻弄されます。日付はとおに変り、夜明け未だ遠い夜の淵の中で必死に藻掻くさまが描かれています。

そして、この『バカ女26時』はどうでしょう。純粋に最初に深夜のファミレスで話していた時間かもしれませんが、深夜のファミレスの雰囲気、そして全てを捨てた逃避行の旅を今まさに突き進んでいく。そんなターニングポイントを超えて動き出した直後の勢いを感じる時刻だな、と思いました。




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