Marumaru's TinyPlaza

(2011.03.01)(book)狼と香辛料16

『狼と香辛料16 太陽の金貨 <下>』/支倉凍砂


タイトルは16巻になってますが、内容は『狼と香辛料』シリーズの総括です。

この作品は1回目のアニメ化をきっかけに知って、6年近く本当に楽しませてもらったシリーズです。

あらすじを簡単に書くと、主人公である行商人ロレンスが、旅先の街でホロという狼の耳と尻尾を持つ少女と出会う。この少女の本来の姿は狼で、『ヨイツの賢狼』と名乗る豊穣の神様だった。長年この地で豊穣の為に頑張ってきたが農業の近代化に伴い神様が必要とされなくなったと感じたホロは、ロレンスに故郷であるヨイツへの案内を頼む。こうして二人のヨイツ目指す旅が始まる。というお話。

この作品の面白いところは、剣と魔法が殆ど出てこないのにファンタジーの世界観だ、と言いきれるところ。物語の舞台は戦いや少しの魔法が存在するファンタジーの世界なんですが、ロレンスが行商人なので戦う力は持っていません。だから、ファンタジーの世界で立ちふるまう行商人が主人公で、その視点から描かれていると言う、今までありそうで無かったお話。でも、これが面白いんです。

ロレンス一行は旅の途中で幾多のトラブルに巻き込まれますが、そのトラブルを戦いではなく知恵で解決していきます。解決策が戦いであったとしても、ロレンス達が前線で戦う訳ではなく、手段を考えます。戦闘能力ないですし。その為に行われる交渉や売買、通貨や取引、裏切りや同盟。派手な表舞台の裏で、その舞台を整える為に必死に策を巡らせるロレンスとホロの頭脳戦や心理戦が読んでいて本当に気持ち良い。強いて言うならちょっとロレンスが万能過ぎるところがあったりもしますが……。まあ、主人公だし。

加えて、ストーリーの構成的に上手いと思ったのが、”巨大な狼になれる”というホロの力の使い方。狼になったホロは巨大な力を持っていて、物語を進める上ではジョーカーのような万能の力になり得ます。でも、このホロの力は攻める為の剣ではなく、身を守る為の盾としてしか使われていない。このストーリーを壊しかねない設定を上手く理由を付けて上手に使っているのが面白さに繋がっています。

そして何より、この『狼と香辛料』の魅力は、ヒロインであるホロの可愛いさ。これに尽きる。一言で言うなら、姐さん女房最高。ロレンスはホロを好いていて、ホロもロレンスの事をまんざらでも無いんですが、相手は長い時の流れを生きてきた賢狼。事あるごとに必死にアピールをするロレンスに対してホロは基本上から目線で、時には呆れ、時には怒り、でも大事なところではロレンスを立ててくれる。まさに姐さん女房。

ロレンス視点なので、ホロに言葉をかける度に「これは○○だから、××すればホロは喜ぶだろう」と言う風に色々考えを巡らしますが、いつもホロはそれを見透かしたように振る舞います。この二人のやり取りが面白い。基本的にホロの方が人生経験が上なので、ロレンスはいつも良いようにあしらわれているんですが、旅を通じてロレンスも成長していってホロとのやりとりも徐々にホロを言い負かすような格好になっていきます。でも、ロレンスが「今回はしてやったり」みたいに思っていると、やっぱりホロはそれを見透かしていて最後にしっぺ返しを食らう、と。基本的にお預けプレイ状態なので、そのもどかしさがたまらない。

だからと言って、ホロも好きでロレンスに冷たくしている訳じゃないんです。豊穣を司る神、ヨイツ賢狼と言うプライドもありますが、神であるホロは気の遠くなるような時間を生きてきているです。その中では人間と仲良くなった事もあったんですが、永劫の時を生きる神と違って人間には寿命があります。ホロが好きになった人間は必ずホロより先にこの世を去ってしまう。

そんなホロの心情が詰まっている、物語後半のこのセリフ。

「もう、目を覚まして誰もおらんのはいやじゃ。一人は飽いた。一人は寒い。一人は寂しい」

ホロはロレンスに心を開かないんじゃなくて、開いた後にある悲しみを分かっているからこそ、心を開けないんです。だからこそ、たまに見せるホロの素直な気持ちが切なくて、何より可愛い。普段上から目線の人がたまに見せるしおらしさ……と書くと、所謂ツンデレと言えなくもないですが、長い付き合いの中で変わっていく心情が表に行動として出る。その行動の普段とのギャップが良いんです。

ところで、ホロの喋り口調は少し時代がかる……と言うか花魁のような独特な口調で、一人称:わっち、二人称:ぬし、~でありんす、~じゃろ?みたいな言葉を使うんですね。娘の外観で時代がかった口調のホロ、このギャップも魅力の一つです。

このシリーズ、ホロとロレンスの関係は1巻から16巻まで殆ど一緒ですが、波乱万丈の旅の中で徐々に深まっていくお互いの絆。ロレンスの成長。周りの登場人物との絡み。長いシリーズなのに主題がブレずに最後まで綺麗にまとまっている作品でした。

そんな感じで、このシリーズの本編は16巻で終わりですが、後日談のような話が続くらしいので楽しみです。この本にリアルタイムで巡り合えて本当に良かった。ライトノベルでこのところずっと追っていた唯一の作品だったので、完結記念に思うところを書きました。



kamikuzu 最近乱入クエで遊んでるんだが 乱入モンスターの十中八九イビルジョーなんだけど とTwitterの方に反応してみた (2011/03/01 02:13:51)

Marumaru ジョーが乱入してくるんだ。乱入クエは乱入の時点でクエスト終了してることが多いなぁ。
てか、Twitter始めてTwitterで返信してよ(笑 (2011/03/01 07:46:35)

近代衣服の残響 mixiメッセージでわざわざありがとうございます。
早速レビューを拝読させていただきました。
最新刊を読みたくなると同時に、
自分が既刊を読み始めたときのことを思い出しました。
(9巻発売前あたりだったでしょうか)
このシリーズの魅力はほんとにまるまるさんの仰る通りで、
今回のシリーズ解説は一々膝を打つ的確さでした。
当時、「ラノベでもこういうやり方があるんだ」と、
ひとつ世界が開け、そしてむさぼるように次々と読んでいったことを思い返します。
近刊は未読ですが、確かにこのシリーズにはブレというものがありませんでした。
媚びず、妥協せず。
ああ、早く読まなくちゃ。
あの頃の気持ちを懐かしく思い出させてくれた、
そしてそれは、やっぱり大切な記憶であった、
と再確認することができました。
長文失礼しました。 (2011/03/01 17:31:00)

Marumaru >近代衣服の残響さん
感想ありがとうございました。
近刊は未読みたいですが、終盤の巻の盛り上がりはかなりのものでしたよ。
ホロ側の展開と物語の大筋の展開が本当に上手いこと交じり合ってます。
読まれたら感想でも教えてくださいな。このシリーズのファンとして楽しみにしてます。 (2011/03/01 22:40:39)


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