Marumaru's TinyPlaza

(2013.04.18)(book)秒速5センチメートル

『秒速5センチメートル』/原作:新海誠 漫画:清家雪子


※一応、注意書き。秒速5センチメートルや他新海作品の内容を書いているので、未見の方は気をつけて下さい。


秒速のコミカライズが出ている事を知ったので、今更ながら読んでみました。

主人公の一人称視点で進む映画版に比べて、各ヒロイン達の視点での心情描写が追加されているので良いです。主人公が遠くを目指して進んでいる裏で、他の登場人物達の時間も同じように流れている。そんな当たり前の事を丁寧に描くことで物語に深みが増しています。

特に明里の想いや心の移り変わりをちゃんを描いているのは嬉しいです。映画版観るだけだと、手紙を渡しそびれてからの明里の描写が殆どないので、ともすれば酷い扱いを受けやすいヒロインですが、主人公と同じく想い出を薄めながら過ごしていく時間の描写があるからこそ、最後の踏み切りのシーンが余計に引き立ちます。

他作家視点のキャラクター心情を使って描かれる喪失の先、物語としての綺麗な結末

ところで、このコミカライズを読んでいて思ったんですが、この漫画の最後は綺麗な形で再会が書かれているんです。映画版だと「one more time one more chance」の切ない歌に乗せ、第三章を丸々使って主人公の心の「消失」が描かれて終わります。視聴者の想像に全てを任せ、視聴者を何とも言えない切ない気持ちにさせての終わり。ある意味これが新海さんの真骨頂なんですけどね。

だけど、このコミカライズ版ではその「消失」の次を描いています。この展開どこかで見たなぁと思い出していると、ありました。同じく新海作品「ほしのこえ」の小説版。宇宙によって遠く遠く引き裂かれてしまった恋人達、でも想いが距離や時間を越える事があるかもしれない、「僕は(私は)ここに居るよ…」とまさしくセカイ系的な終わり方をした「ほしのこえ」これ、小説版では宇宙関係の仕事に就いた昇がラストで美加子との再会を果たし「おかえり」と終わるんです。

何らかの抗えざる大きな力によって引き裂かれてしまった恋人達、その男側の心の喪失感を描き続けている新海誠さんですが、ノベライズやコミカライズではその後がきっちり書かれ、ハッピーエンドで終わっているのが興味深いです。主人公視点で距離と時間を越えた心の在り方を提起するところまでが新海さんの描きたい事であり、その後に出す別メディアの話については、その作者さん視点で主人公以外の心情を描き、その結果として最後のハッピーエンド(≒再会)を描いて欲しい、と言う事なんでしょうか。ここは私の勝手な想像ですが。

だけど、そう考えると面白いんですよ。仮に、新海さんは物語の主人公に本人を重ねて作っているとしたら、何らかの事象の結果訪れたシチュエーションに対して、自分の心情を吐露することで男性視聴者が共感出来るような心情描写を描く事は出来るけど、他の登場人物の心情を描いて恋人達の未来を描く事は好まないのかな、と。そんな事を考えていると、今まで他メディアで出ていない「雲の向こう、約束の場所」のノベライズなりコミカライズなりが見たくなりました。この作品も、壮大な世界観と主人公の心情は描かれていましたが、ヒロインの心情が分かりにくいせいで割と難解な作品になってしまっているので……。

なんだか話がそれてしまいましたが、このコミカライズは映画版を観ている人に特にお勧めです。映画で伝わる映像美、テーマの骨格に物語としての面白さが肉付けされたように思いました。




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