Marumaru's TinyPlaza

(2017.05.08)(book)とある飛空士への追憶

『とある飛空士への追憶』(新装版)/犬村小六


例えるなら90年代のポカリスエットのCMみたいな本当に爽やかな読後感の一冊でした。

貧民街から神父さんに拾われて飛空士を目指した主人公と、モノとして嫁がされる故に心を閉ざした皇女のお話。しかも、二人は過去に一度だけ会っているっていうね。もうね、本当に王道。

本シリーズは長編として続いているみたいなのですが、これは受賞作で、描かれているのは物語のほんの序章の部分です。むしろまだ物語は始まってすらいません。と言う、この部分だけで一冊書きあげた事が驚きでした。この物語どうやって風呂敷を畳むんだ??って思ってたら、これまた王道の方法で綺麗にまとめてくれて、ここまでやってくれたらもう文句なしです。

ただ、少年少女の放つ輝きがオッサンには眩しすぎたので、この作品を語るには、正統派どストレートのボーイミーツガールものを胸を張って面白かった。大好きなんだ!と言い張る気概が必要だと思いました。

多分、ラピュタに影響を受けているような気がするので、爽やかな冒険譚として中学生ぐらいの人に読んで欲しいと思った作品でした。

そして、続きが気になるので、続編の「~の恋歌」にも手を伸ばそうかと考えているところ。



(2017.05.13)(book)ちはやふる

『ちはやふる』(34巻まで)/末次由紀


kindleで3巻まで無料だったので、読んだら続きが気になって堪らなかったので、休日前に漫画喫茶に駆け込んで一晩かけて読んできました。休憩挟みながらずっと集中して漫画を読み耽る……こんな熱量のある行動をしたのは久々かもしれない。

そんなちはやふるですが、兎にも角にも面白かった。そして泣けた。何より熱かった!!どのシーンとかじゃなくて、読んでて自然に涙が零れてた。(涙腺弱いオッサン)

物語の軸が終始「かるた」(競技かるた、所謂百人一首)からブレないのが良いです。

ひょんなキッカケからかるたを始めたヒロインが、部を創設して最初は純粋にかるたの強さを追い求め勝負を繰り返していく訳ですが、途中から世代が進み、後輩が入ってきて指導や人間関係が生じたり、他の部活との部室のいざこざや、他の学校のライバル達との関係、そして進学、etc……。色んな要素が入ってきますが、すべてかるたを軸に進んで行くので、話に中弛みがなく進んで行くのが読んでいて気持ち良い。

そして、試合の魅せ方が上手い。「読まれた札を先に取る」のが基本のかるただから、ルールがシンプルで漫画で読んでも試合の流れが分かります。その中で、札の配置や音の聞き分け、送り札、何字決まりといった戦略を使った読み合いが展開するので読んでいて引き込まれます。

加えて、強さのインフレが発生しにくい状況を作ってるのが素晴らしいと思いました。明らかに各上との対戦であっても、一方的な試合は殆どなく、部分部分でちゃんと見せ場が描かれているんです。長時間の試合の連続なので、相手ににも疲れや隙が生じたりするので、そこで練習の成果を出して得意な札を取る見せ場があるんです。

バトルものにありがちな特殊能力や必殺技のようなものは無く、あくまで普段の努力と練習の結果が試合で出ているって展開が熱いんです。そもそも「部活でかるたなんてやる奴は何処かしらのコンプレックスがある」的な事を作中の台詞で言わせるぐらいです。そんな選手達が、必死に努力して勝利を掴む展開が本当に熱い。個人戦はA級~D級に分かれている為、ランクに応じた熱い応酬が繰り広げられています。

特殊能力等は登場しないですが、かるたの試合はルールが比較的緩いらしく、試合中に宣言をすれば札を並べ替えたり、小休止をとったり出来るみたいなんですね。それに、札を取る時に勢い余って札が飛んでしまう事も多いみたいで、その辺りの反則にならない行為をキャラクタ付けに上手く使っている印象がありました。

そして、チームとしての在り方を熱く描いています。「個人戦は団体戦、団体戦は個人戦」のテーマの下、チームとメンバーの応援を背負って個人戦を戦う姿、チームを盛りたて流れを作る為に自分自身が普段以上の力を発揮して奮闘する姿。何にせよ本当に熱い。

と、書いていればキリがないんですが、他にも、少女漫画らしい絵柄の綺麗さ、高校毎のチームをはじめ登場人物が多いのにキャラが皆立ってたり、恋愛要素が主軸を邪魔しない範囲で良いアクセントになっていたりと、総合的な完成度が非常に高い、本当に魅力的な作品です。34巻現在でクライマックスに向かって走っているような展開なので、続きが本当に気になります。



(2017.05.13)(book)ちはやふる34巻174首について

ストーリーもキャラクターも絵柄も熱さも、様々な部分で琴線に触れてはまってしまったちはやふるのマンガなんですが、どうしても語りたいシーンがあるので別記事で書きます。34巻174首の内容です。

※思いっきりネタバレなので、大丈夫な方のみ。




































『ちはやふる』34巻より


はい。このシーンです。青春すぎて辛い。

もともと、奏ちゃんは一番魅力的なキャラクターだと思っていたんですが、このシーンで好感度が鰻登りになりました。

無粋とは思いますが、この会話を自分なりに補完するなら、

  • 「好きっていってくれて、ありがとう」
    • 私に対して好意を持ってくれてありがとう。
    • 他の沢山の女子じゃなくて、私を選んでくれてありがとう。
    • 気持ちを伝えてくれてありがとう。
  • 「ありがとう、うそって言ってくれて」
    • ありがとう、机くんの私に対する気持ちを知っていて、私に机くんを譲ってくれて。
    • ありがとう、嘘だと言う事で私が返事をしなくてもいい様にしてくれて。
    • ありがとう、机くんが私に告白するように背中を押してくれて。
    • 何より、ありがとう、自分が傷つくのが分かって、そんな格好良い事をしてくれて。

こんな感じでしょうか。このシーンって、取り方によっては、告白してくれた肉まん君に対して、奏ちゃんは自分の気持ちを伝えておらず、シチュエーションに浸るずるい女のようにも感じられるかもしれないんですが、今までの奏ちゃんの描かれ方を見るととてもそんな風には見れないです。かなちゃんは素直で真っ直ぐな17歳の女の子ですから。

このシーン、肉まんくんが告白を嘘だと言い張っているんだから、奏ちゃんの方もこの告白は無かった事にしないといけない。そうしないと、せっかくの肉まんくんの勇気が台無しになってしまいます。だからこそ、肉まんくんの「好き」に対しての返答はYESでもNOでもなく「ありがとう」なんです。

全てを分かった上で、真正面から受け入れて変にはぐらかさず答える奏ちゃん。髪をおろし一張羅を着ておめかしをしていた時に言うのは、奏ちゃんから肉まんくんへの精一杯の思い遣りだと思うんです。自分を好きだと言ってくれた人、だけど自分には好きな人が居る、その人に告白をさせるように身体を張って頑張ってくれた人に対して、真摯に応える人なんだなぁ、と。

だからこそ、奏ちゃんはこんな色んな感情が入り混じった表情をしているんだと思うんです。決意を込めて肉まんくんに声をかけ、精一杯の笑顔を渡そうとして気持ちが溢れてしまった、そんな風に思える表情でした。私達は、これからもずっと友達だよ。そんな気持ちもあるのかもしれません。

あーーーーー。甘酸っぱい。何この青春。机くんは努力の甲斐もあって、ただの時間ではない宝物を得た訳ですが、出来る事なら肉まんくんにも幸せが訪れて欲しい。肉まんくん、かるた暦は長くて努力もしてるのに、どうも噛ませっぽい扱いが多いんですよねぇ。

かるた部の熱い戦いの脇で捲られる切ない青春の一頁。読んだ瞬間に色んな事が頭をよぎり、何度も読み返したシーンでした。



(2017.05.18)(movie)ちはやふる

映画『ちはやふる』(上の句)、(下の句)


この脚本書いた人の取捨選択が格好良すぎる。そして尺が足り無すぎる。これが前後編通して観た時の最初の感想。

展開は1年の全国大会まで。これは観る前に予想していた通りでした。原作までもここまでは一気に進むし、これ以上は登場人物が一気に増えるし、何よりキリが良い部分ですよね。

とは言っても、前編111分、後編102分でマンガ6巻分の展開をまとめきった構成は本当にお見事。私は、やっぱりある程度の駆け足は仕方ないなぁ、思っていたんですが、一緒に観ていた原作未読の人は、流れがギリで分かったと言っていたので、必要な情報はちゃんと入っていた模様。

かるたの専門用語は登場はするものの、説明はしないスタイル。確かに短い尺の中で説明を入れるよりはスムーズで流れも自然だと思いました。

一番素晴らしいと思ったのは、最後の落としどころ……というかテーマを「かるたを通じてみんなと繋がりたい」にしたところ。戦いの熱でも三角関係の決着でもなく、かるたにしたところ。下手に恋愛映画になっていなくて本当に良かった。

試合の熱気については、ある程度かかれているものの、途中からは試合シーンを通じての心情描写を語るような感じでした。コナンの映画でもそうだったんですが、下手に試合内容を映像(アニメ実写問わず)で再現すると、色々と粗が出るのかな、と。

実際の試合シーンにどれだけ経験者が関わっているのかは分かりませんが、エンドロールを見る限り実際の高校やかるた関係の諸団体が全面的に協力をしている模様。

観終わって思いましたが、かるたを通じて繋がりと熱と青春を描くこの映画は、競技かるた界にとって完全にPVだよなぁ、と。そりゃ、競技かるたの団体も協力を惜しまない訳です。

下の句から登場の詩暢役の人の演技が特に上手いと思ったのを始めとして、登場人物全体の雰囲気が原作の雰囲気と合っていたのも良かった。外見じゃなくて、原作のキャラクタを演じる観点でキャスティングしている原作映画って良いですね。

そうなってくると、映画のメイキングやコメンタリとかも気になる訳で、レンタルで本編ディスクのみが入ったものを観たんですが、販売版についてくる特典ディスクが気になって仕方なくなりました。

とにかく、時間を考えるとこれ以上無い構成と出来だと思いました。演者さんのに関しては疎いので(かなちゃん役が君の名は。の三葉役の人ってぐらいしか分からなかった)、これからレビューを読み漁って、演者視点の記事を読むのが楽しみです。




<(2017.04.29)(book)ノ・ゾ・キ・ア・ナ (2017.06.13)(game)G級アマツを討伐した>