Marumaru's TinyPlaza

(2018.04.08)(book)寮生

『寮生 一九七一年、函館。』/今野 敏


函館の男子高校の寮を舞台に繰り広げられるミステリ。

何が面白いって、タイトルにもある1971年っていう設定。携帯やSNSなんて当然無くて、電話も寮の設置電話に呼び出して貰う方式。だから必然的に会話は人と人が面と向かって行う事になるんですが、人を呼び出すまでの駆け引きであったりとか、先輩後輩関係入り乱れる中での会話の緊張感がたまりません。

それに、通信手段の無い狭いコミュニティの中で絶大な幅を利かせる「噂」という存在。時として「伝説」と呼ばれるものにも格上げされる、その存在の影響力、そして虚ろさ。

読みやすくさらっと終わり、少しの物足りなさはありましたが、それが1971年という時代の空気を表していた。と言うと言いすぎでしょうか。色んなものが無くて確かに不便ですが、その分、人間や物事の本質を澄んだガラスのように映し出す事は出来る、そして熱を持って何かをしないと何も始まらない。熱があれば無から何かを成せる時代。

あと、女子との甘酸っぱい関係が何とも。青春だなぁ。

そして、最後に振り降ろされる一刀の切れ味も抜群でした。



(2018.04.08)(movie)深夜食堂

『映画 深夜食堂』


プライムビデオに入ってたので。ドラマの方は未見です。

いやー、良かった。ちょっとゆるめのキャラが淡々と人間ドラマを展開していく漫画版も好きなんですよ。余計な事は言わずに顛末だけ語って後は想像におまかせっていうあの感じ。

映画版は、漫画版の雰囲気が好きな人が頭の中に描いていたであろう情景を見事に実写化していました。押しつけがましくない昭和感とでも言いましょうか。

3編から成るオムニバスなので、撮り溜めたTVドラマを見ているような感じ。個人的には2つ目のエピソードが好きです。これって原作にあったっけ?(飛ばし飛ばしで読んでたからよく分からない。)あ、ちなみに私は『レオン』大好きです。



(2018.04.09)(book)夜行

『夜行』/森見登美彦


夜をテーマにした何とも不思議なファンタジー?ホラー?

「夜は短し歩けよ乙女」でも思ったんですが、この作者が描く夜の世界は本当に不思議。読後に「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」というキャッチコピーにとても納得しました。

読後感としては、出来の良いアドベンチャーゲームをプレイしたような感じでした。読んでいて常に景色が頭に浮かんでいたり、物語のギミックが小説のそれというよりはゲーム的なものに思えました。

京都の地名が数多く出てくるので、京都の地理をある程度理解していると楽しめるかも。



(2018.04.14)(game)ZERO ESCAPE 刻のジレンマ

『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』


極限脱出シリーズの3作目で完結編。興味はあったもののプレイするタイミングを逃していたんですが、やっとプレイ出来ました。

以下、完全にネタバレで感想を箇条書き。



















  • 脱出パートが面倒。解き応えがあるではなくて面倒。閃き重視ではなくて、やたらと手順が多かったり、メモを取りながらの置換や対応探しだったり、理不尽だったり。ゲームのアクセントではなくて負担になっていた感がありました。脱出ゲームなのに途中何度か攻略を見てしまいました。
  • 完結編ということで「9人9時間9の扉」、「善人シボウデス」に絡めた設定なんですけど、ちょっと無理があるかなぁと。シグマ&ダイアナの子供とか。
  • 映画を目指したということでフルボイスなのは良いんですが、メッセージスキップが一気に飛んじゃうのが微妙。声優さんの演技は上手いんですが、目視で確認したら飛ばしたいセリフもあるので。能登麻美子さん最高。最初は何で?と思ったけど、理由を知ると納得の理由の配役でした。
  • 多分ミステリの定番なんでしょうが、3チームの時間軸がずれている+3区画の部分は面白かったです。90分で記憶が消える設定や記憶の欠片のシステムに関して最初は??だったんですが、このトリックの為だったんですね。
  • 『Q』≠ショーンの存在については、存在を仄めかす描写もあったけど、ちょっと唐突だったかも。多分、記述法でその辺りの整合性はとってるんでしょうが。ただ、叙述トリックなのは良いとして、公式サイトのチーム紹介に入ってないのは反則な気が。
  • ラストの展開がやりたかったんでしょうけど、あの後味の悪さは嫌いじゃないです。と言うか、最後のあのシーンこそ選択をいれて欲しかった。
  • ゲームの展開に対してシステムが付いて行っていない感じがしました。チャートが複数あるのも、結局は選択肢埋めの為だけの存在で、ゲームの内容を視覚的に表示する効果はあまり無かったのではないかと。
  • 3チーム分の視点を入れ替えてる関係でストーリーの穴埋め作業感が大きかった。最初からロックされたストーリーがずらっと並んでいるとちょっと気が滅入るかも。
  • 3DSのCERO-Dって割と直接的なグロ描写OKなんだなぁ、と。
  • 結論ですが、極限脱出シリーズは1作目の「9人9時間9の扉」が一番面白かった。あと、これ系のゲームだと「YU-NO」、「シュタインズ・ゲート」はやっぱり名作なんだな、と。

なんか愚痴ばっかりになってしまいましたが、このシリーズが好きで完結編に期待していたからこその悲しさもあります。



(2018.04.18)(game)ファイナルファンタジー

『ファイナルファンタジー』(FC)


3DSのバーチャルコンソールで購入したところで満足していたタイトルですが、やっとクリア出来ました。

思っていたよりストーリーがしっかりしていて驚きました。遊び心もあり想像力をとてもかき立ててくれる話でした。言い方は悪いかもしれませんが、誰しもが幼い頃にノートの端に落書きした世界や物語、それを本気でゲーム作品にしたてたような、そんな感じがしました。ラスボスの名前とかは知っていたんですが、ちゃんとストーリーを追っていくと意外性もあって驚く程によく出来ていました。タイトルにも意味があるのがなるほどなぁ、と。

FCのチープな画面だからこそ、画面に表示されない情報は自分の頭の中で好きに想像する訳で、ここだけはどんなにリアルな視覚情報で構成された世界よりも自分に都合良く素敵な世界かもしれません。船や飛空艇を使って、中世の世界、大空、海底、そして宇宙を駆け巡りながら世界を救う冒険をする。1987年の作品だからまさに王道を切り開いた時代の作品ですね。クリアしていないゲームを引き合いに出すのもあれですが、ハイドライド3を思い出しました。80年代ってこういうSF的ストーリーが流行っていたんでしょう。

PT構成は、戦士(ナイト)、モンク(スーパーモンク)、赤魔術士(赤魔導士)、白魔術士(白魔導士)でした。呪文の使用回数が少ないとは聞いていましたが、それよりも回復が厳しい。回復手段が少なすぎるんです。回復は白魔を入れていても回数と回復量の関係で十分な回復は出来ないし、高位回復はボス用に取っておかないといけない。基本はHP30回復のポーションを99個持って、1ダンジョン持たせる感じです。

毒消しも高いのにモンスターは容赦無く毒攻撃してくるし、宿屋に泊まっても毒・石化が回復しない。フェニックスの尾が無いから、死んだらレイズ(アレイズ)か教会なんですが、レイズを覚えるのは中盤(白・赤のみ)なので、それまでは基本的に死んだら終わり。しかも、石化・死亡は戦闘中には回復出来ない。

なんて言うか、回復しながら戦うんじゃなくて、傷つきながらも全滅せずに帰ってこれたら勝ちって感じなんですよね。この感覚、STGに近いものを感じました。徹底的なリソース管理をして消費しながらも最後に残っていれば勝ち。確かに冒険ってそんなに甘いもんじゃないなぁ、と妙に感じてしまいました。

それなのに敵側は結構な割合で先行全体攻撃してきたり、全体毒も当たり前。全体麻痺持ちが9体出て先行で麻痺固めされたり、即死攻撃連発でなす術も無く全滅した時は3DS投げそうになりましたが、逆の立場なら同じ事するよなぁ、と。結果、やたら長いダンジョンは逃げまくって、とにかくボスを目指すというプレイになりました。全然無双してない。とは言え、逃げられない敵や固定エンカウント(宝箱前)が結構あるので、本当に傷だらけの冒険でした。

そんなバランスなので、レベル上げをしっかりしておかないと楽にしねます。クリアの為のレベル上げなんて久々にしましたよ。それに買い物は1回に1個しか購入出来ないので、ポーション99個買うのは結構な手間ですが、死ぬよりはまし、むしろこれが無いと始まらない、99個持ててありがとうと言う変なテンションに。

一応、終盤から戦闘中に使用する事で全体回復出来る装備が手に入ったりもするんですが、回復量は15程度。それでも、有限だった回復手段が無限になる恩恵は大きく、戦闘の度に使うことで大分楽になりました。最終的にはこの回復装備が3つと、回避率上昇魔法が使える装備が手に入るので、ボス戦前とかには物理攻撃オンリーの敵を1匹だけ残して、回避率を上げ切った後で3人がかりで延々装備を使ってHP回復をするっていう面倒な事をしていましたが、無から有を生み出すというリソース管理の法則に反するメリットの前には喜々としてこの作業をしていました。

ちなみに、攻略はそれなりに見ています。装備の所持制限が厳しかったり、各種装備や魔法の効果が分からないと色々厳しい。後、ダンジョンマップは必要。システムは今に比べると不便なところが多いですが、87年の作品に言う事ではないし、この時代のゲームが礎となって今の便利システムが生まれているんだと思います。

何だかんだで思った以上に楽しめました。EDロゴ描写を見てナーシャ・ジベリは変態だと改めて思った。



(2018.04.20)(movie)イヴの時間

『イヴの時間 Are you enjoying the time of EVE ?』


プライムビデオで観られる面白い映画の紹介で見かけたので観ました。2008年から逐次公開作品の編集みたいですが、そういえば10年ぐらい前に名前だけは聞いたような気がします。

ロボットが実用かされて久しく、人間型ロボット(アンドロイド)が実用化されて間もない未来が舞台の、人間とアンドロイドの関係を描いた話です。よく見かけるテーマではあるんですが、話をそこだけに絞っているので分かりやすく面白い内容でした。

アンドロイドなんて遥か遠くの未来と思っていましたが、音声認識がほぼ完成してスマートスピーカーが実用化され、AIの発展も目まぐるしく、Pepperなんかが発売されている状況を見ると、外見以外はそう遠くない未来に実用化されるのかな?という未来予想が出来る時代になってきました。実際、作中では初期型のアンドロイドとしてPepperみたいな外見は分かりやすいロボットというアンドロイドも登場していましたし。

ただ、2008年の段階ではスマフォの爆発的な普及は予見出来なかったのか、携帯デバイスとしてガラケーの画面を大きくして解像度を上げたような端末が近未来の携帯デバイスとして描かれていました。それ以外のIT機器の描かれ方はそんなに違和感無かったので、そこは残念……と言うか初代iPhoneが出たのが2007年で、当時使ってたのなんて相当なギークだけですもんね。そりゃ無理だ。2009年公開のサマーウォーズでギーク扱いの侘助がギリギリでiPhone(らしき)端末を使っていたぐらいですし。

内容ですが、ロボット工学三原則に則った行動をしていても、「嘘をついてはいけない」事にはならない。と言う切り口で人間とアンドロイドの関係を描いていたのが面白かった。確かに言われてみればそうですね。人間相手であっても、アンドロイド相手であっても、相手が何を考えているのか分からないのなら、会話を重ねてお互いを理解し、距離を詰めていくしかない。アンドロイドにも記録の積み重ねがあって、そこから学習機能を使えば、感情と言われるものに近いものは作れるんじゃないだろうか、と思わせてくれる内容でした。



(2018.04.21)(game)ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者

『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』


以前に3DSのVCで買うだけ買って放置していた作品。名作らしいと、名前だけは知っていた作品でした。

FC実機で遊んでいた頃、ADVにはまっていた時期があってAVDを色々とプレイしていました。さんまの名探偵・赤川次郎の幽霊列車・京都龍の寺殺人事件・ジーザス恐怖のバイオモンスター・ポートピア連続殺人事件・etc……。このファミコン探偵クラブはそんなADVの中でも特にプレイしやすかったように思います。

とにかく操作性が良いです。カーソル速度や文字関係でストレスが無いし、場面に応じて移動先やコマンドがある程度絞られて表示されるので、詰まることが少ないんです。加えて、特定の人物と重要な話をしている時は別の場所に移動出来ないようなシステムもあって、物語を読むのに集中出来ました。ある程度キリが良い部分で一度事務所に戻って推理を整理するパートが良い感じの途中休憩になってメリハリが付いていました。

だからと言って簡単かと言うとそうでもなくて、コマンドの意外な使い方や自由移動カーソルによる選択、キーワードの直接入力等、主要な部分は自分で解く楽しさを与えてくれました。昔のADVでよくあった後半の3D迷宮も実装。広くはないんですが、久々に紙にマッピングをしました。

ストーリーもよく練られていて、伏線回収も上手く、最後のどんでん返しによる風呂敷の畳み方も綺麗でした。強いて言えば、すべて平仮名表示なので、後半で人物が一気に増えた時にちょっと頭がこんがらがったぐらいでしょうか。これは純粋に私の読解力が低いだけかもしれませんが。

EDのスタッフロールを見て知ったんですが、この作品の制作はあの横井軍平さんみたいです。そりゃ面白いわ……。



(2018.04.23)(book)異世界のんびり農家 01

『異世界のんびり農家 01』/内藤 騎之介


Webサイト「小説家になろう」で連載され人気が出て書籍化された所謂「なろう系」小説。今まで存在は知っていたものの読んだ事が無かったんですが、この度知人から勧められて読んでみました。

正直、驚きました。異世界転生モノなんですが、なろう系の界隈では異世界転生が至極当たり前らしく、冒頭でいきなり転生していました。ファンタジー小説で言うところの「俺は○○。冒険者。」ぐらいの勢い。異世界に巻き込まれるっていう設定なら今まで色々と見てきましたが、転生ってこんな気軽なテンションで書くものだっけ?と。

内容は、異世界に転生した主人公が転生時に神様から「健康な体」と「万能農具」を授かり、異世界で農業をしながらスローライフをおくるというもの。この設定が、俺TUEEEEどころじゃなくてまさにチートでした。念じればどんな農具にでも形を変える「万能農具」、それを使っている間は疲れる事もなく、それを使えばどんな不毛な大地でも一瞬で肥沃な畑に変わり、普段の数倍の速度で成長し、自分の思った作物が育つ……ナニソレ。

途中から作業を手伝ってくれる犬や織物をしてくれる蜘蛛も仲間になり、様々な種族の仲間(主に女性)も増えていく訳なんですが……。本当に何一つ困らないんです。妨害要素の無いシムシティでひたすら都市を発展させている様子を眺めている感じ。起承転結で言うと、起があって承が延々続く感じ。

読んでいて困惑していたんですが、途中で気づきました。これって、まんがライフとかの4コマ漫画を読んでいる感覚で読む小説なのかもしれません。血沸き肉躍る戦闘、巨悪に立ち向かう英雄譚、国と国との抗争劇、そんなのではなくて、細かい設定は置いておき、異世界のゆるい生活をひたすら眺める物語。

面白い面白くない以前に、色々と衝撃を受けた作品でした。読み終わって気づいたんですが、死者が誰も出ない小説を読んだのは本当に久しぶりかもしれない。




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