Marumaru's TinyPlaza

(2021.02.14)(book)友情

『友情』/武者小路実篤


本当に今更なんですが、この作品は以前から私が好きな作品の話題や考察の中でよく話題に挙がるタイトルです。なので気にはなっていたんですが、やっと読めました。

えー。これ1919年の作品でしょ。100年以上前から人間の感情は変わらないもの……。それを言うと万葉の世や更にそれ以前から、人の心は変わらないという話になりますが。

うん、この話、大好きです。著名なラノベやエロゲが長い時間をかけて語る物語をこんなに短く綺麗に語るのは流石古典の名作です。綺麗な日本語で、この短さで、教科書のようなお手本展開で、このストーリーを描いた作品が日本文学の古典なんですよねぇ。やっぱり日本人は昔から脳が破壊されている。

登場人物がみんな熱くて真っ直ぐなので、読後感が爽やか、とまでは言わないものの後味が悪くないです。とにかく主人公の性格にとても感情移入してしまいました。

高校とかの時に読んでいると人生観に影響を与えたかもしれない。憧れの人に片想いして舞い上がり、理想の相手を心の中で作り出し偶像化する、まさに青春。と同時に、女性の魅力と賢さ、強かさも描いています。

何についての話かは敢えて書かなかったので、気になる方は(今更私が勧めるべくもないですが)是非どうぞ。

ちょっと印象に残った文章を覚書を兼ねて引用します。こういう考え、表現ってあまり公に言うのは憚られますが、「恋に落ちる」「愛してる」の女性ならではの表現だと思います。

「私はただあなたのわきにいて、御仕事を助け、あなたの子供を生む為に(こんな言葉をかくことをお許し下さい)ばかりこの世に生きている女です。そしてそのことを私はどんな女権拡張者の前にも恥じません。『あなた達は女になれなかった。だから男のように生きていらっしゃい。妾(わたし)は女になれました。ですから私は女になりました』そう申して笑いたく思います。

武者小路実篤『友情』より



(2021.02.21)オンライン同人音楽即売会(ミュートピア)に一般参加した

友人がサークル参加しているオンライン同人即売会(Music Utopia(ミュートピア)vol.03)に一般参加してきました。



すごく楽しかった。それに新しい音楽との出会いもいっぱいあって幸せだった。

カタログのサイトがあって、それにサークルの一覧や各サークルの紹介、試聴曲が貼ってあったりするんですが、即売会はオンライン上に作られています。pictSQUAREというシステムで構築されていて、2Dのドット絵キャラをアバターにして、マップの中を歩き回って各サークルさんのスペースを見て回る。FC版ドラクエの街の中みたいなイメージです。

実際の情報としては、カタログサイトの出来が良いのでカタログサイト内で拾えるんです。が、オンライン空間の中で、他の参加者の人と歩き回って、サークルさんのスペースで看板やメッセージボードを眺めたり、他の参加者やサークルの方と吹き出しでチャットをしたりしていると、イベントの空間に参加しているという実感が湧いて楽しいです。やっぱり作った人と直接交流が出来るのが即売会の魅力ですね。

と言うか、ドット絵マップを歩き回って吹き出しチャットするっていうインターフェイスは、まさに初期のMMORPGです。初めて触れたMMORPGである風の王国を思い出して懐かしくなっていました。ただ、2Dのドットキャラをアバターにしてコミュニケーションをとるなら、アバターの感情表現(表情を変えたり、ハート等の吹き出しを出したり)が出来るともっと面白かったのに、と思うのは贅沢でしょうか。

閑話休題。

そんなオンラインイベントを楽しんでいたんですが、参加者目線で少し物足りない部分もありました。オンライン上のイベント会場を回っている時のサークルさんが作っている音楽に触れるまでのプロセスが長いんです。

各サークルさんが、それぞれに趣向を凝らしてサークルスペースを飾って、背景画像を変えたり、内装を凝ったりしているんですが、参加者としては音楽に出会いに来たのであって、サークルさんのオンライン上のイベントスペース装飾を見に来たんじゃないんです。それぞれのスペースの定位置にある看板をクリックすれば、そのサークルさんの詳細が出て、試聴曲URLも載っているんですが、自分でそのURLをコピーしてブラウザに貼り付ける必要があります。

試聴曲URLに関しては、カタログサイトと違い形式が統一されていないので、飛んだ先のサイトで更に試聴曲を探したり、URLがTwitterだったりすると、そのTwitterサイトからメディア欄を見て~みたいな工程が必要で少し手間でした。個人的にはバーチャル空間の中で居るのに、外部サイトに飛ばされると、その世界への没頭感がそがれるので少し寂しいです。

と言うか、個人的にはオンライン会場でサークルさんのスペースに入ったら、自動的にそのサークルさんの試聴曲が流れる、ぐらいで丁度良いと思いました。この辺りは、pictSQUAREが音楽イベント用じゃなくてオンライン即売会の汎用システムだから難しいのかもしれませんが。ただ、音楽イベントにおける試聴曲は通常コミケにおけるサークルカットなので、そのサークルさんについて何よりも先に知りたい情報であると思います。

その試聴曲に関してですが、参加者としてはせっかくイベントに参加しているので、出来るだけ沢山のサークルさんを見て回って新しい出会いが生まれる事を求めています。なので、試聴曲は(カタログサイトだと90秒縛り)そのサークルさんの良さを出来るだけ入れ込んで欲しいと思います。この辺り、コミケ等ではジャンル分けが細かくなされていて、サークルカットもイラストなので、一目見るだけで「自分のアンテナにピンと来るかどうか」を判断出来るんですが、音楽の場合はどうしても聞かないと分からないので。

なので、新しいアルバムがあるなら試聴曲で出来るだけクロスフェードで全曲を聞かせて欲しいんです。どの曲が琴線に触れるかは自分にしか分からない。そして、クロスフェードで切り取る部分も、イントロからじゃなくて、一番盛り上がる感情的な部分を切り取って欲しい。これって実作業が伴うので手間だとは思うんですが、作曲する手間に比べたら微々たるものだと思います。

こちらは自分から聞きたくて求めている訳ですが、90秒の試聴曲が1曲の頭90秒を切り取ったもので、30秒ぐらいイントロが続くと流石にちょっと厳しいものがあるんです。シークすれば良いのかもしれませんが。そして、ジャンルやサークルの説明でいくら興味があっても、試聴曲を置いていないサークルさんは……ね。すごく素敵な出会いがあるかもしれませんが、限られた時間の中で他にも回りたいサークルさんはある訳で。

そんな中で、音楽の世界を表現した素敵なイラストが置いてあると、やっぱり惹きつけられてしまって、試聴曲をじっくり聞いちゃうんですよね。音楽の創作をプロモーションするのって本当に難しいなって思いました。

エアコミケ等で話題になっていた、オンライン上の即売会ですが、主催者もサークルさんもすごい熱意に溢れていて、創作の場の雰囲気っていいなぁと改めて思いました。そういえば即売会に参加したのってもう10年ぶりぐらいかもしれない。

最後に、このイベントで素敵な作品に巡り合えたので紹介します。

iski & syunkit

まず、素敵なイラストで惹かれました。オシャレ。そして歌謡曲のようなジャズのような曲調と可愛いボーカルの声。そんな中に入っているジャズのようなギターが最高。アルバムのクロスフェードを聞いていて、「さよならショコラ」と言う曲ががっつり琴線に触れました。Youtubeとかで他の曲も公開されていて聞いたんですが、どれも本当に好き。歌詞がコケティッシュで良いんです。何と言うか全体的な雰囲気がオシャレ!(語彙)

アルバムを買って、スペースの中にいらっしゃったご本人に「アルバム買いました!」と伝えられて幸せ。色々話したい事もあったんですが、サーバが重くてチャットがままなかったんですよね。ただまあ、一般参加者からサークルさんに対する一番の意思表示は「買いました」だと思うので。(後でメッセージボードの存在をしってがっつりメッセージ書いてきました。)

二胡ジャズRecezza

二胡とジャズ!どちらも単体で好きなジャンルですが、この二つを組み合わせるとこんなに素敵なんだ、と。とにかく聞いててめちゃくちゃ心地良い。波に揺蕩う感じ。本当に最高!(だから語彙)

ウチナキレコード

うん。イラストが可愛いと初動の訴求力が大きいよね……。こういうイラスト好きな人はこんな音楽好きでしょ!って感じの音楽でした。民族系の曲を作っているサークルさんなんですが、メロディも音色もコーラスも、とてもいい塩梅で合わさっていて聞き心地が良いんです。ずっと聞いて居たい感じ。土系で泥臭いとサークルさんは表現されていましたが、大地のやさしさ、ぬくもりを感じられる曲でした。



(2021.02.27)(book)VRおじさんの初恋

『VRおじさんの初恋』/暴力とも子


人の印象は最初に見た目から受ける印象で大きく決まって、次に声で殆ど決まってしまうと思っている。

その人の考え方や気持ちと言うのは第一印象で大きな輪郭が出来てから、その中を埋めるような形で情報として追加されるもの。その人に対する立場や役職、そんな事前の情報を知っていれば輪郭は更に太くしっかりしたものになってしまう。そう思っていました。


25年ぐらい前。私がインターネットと出逢うまでは。


初めて触れたネットのチャットは、リアルの性別も、外見も職業も関係なく、ただただお互いの気持ちだけが言葉になって流れていました。リアルだと第一印象を構成する要素足り得る多くのものが存在せずに、むき出しの気持ちが流れている空間。それはとても魅力的で刺激的でした。

だから、そんな空間を通じて知り合い、仲良くなった人は、まず最初にお互いの心から知り合って繋がっている関係。リアルの関係とは別次元の特別な関係に感じたりもしました。

オフ会と言う特別な響きに心を騒がせながらネットで知り合った人とリアルで会う経験して、ネットとのギャップに驚いたり、喜んだり、悲しんだりしながら、それでもネットの空間と現実の世界が重なる体験に興奮する気持ちが一番大きかったのを覚えています。

今ではもうネットは便利なツールの一つと言えるぐらいに普及し、連絡先の一つのような扱いになっていますが、それでもテレホタイムが始まって、ダイアルアップの音色が未だ見ぬ広大な世界へ誘ってくれる詠唱のように感じた当時のときめきをたまに思い返しては、綺麗な想い出の輪郭をなぞってみるのです。


閑話休題。

いきなりポエムから始まってしまいました。

おじさん同士がVR空間で出会うっていう字面だけ見ると地獄のような話ですが、とても気になっていてWeb版からずっと追いかけていた話がついに書籍化しました。

リアルがオッサン同士の恋バナってことでBLな感じもするんですが、私はBLには興味がないです。と言うか、この話はBLではない。

冒頭でも書きましたが、リアルの性別その他諸々を排したネット(VR空間)で出会った関係と言うのは、本当にお互いがお互いの剥き出しの気持ちの部分から知り合った、とても特別な関係だと思います。男性だから好き、女性だから好き、肉体関係を持ちたい、そういう関係ではなくて、(そういう関係を否定するつもりは全くありませんし、それが普通の感情です。)一緒に居たい、一緒に居ると気持ちの欠けた部分が埋まるような、そんな言葉にならない関係なんです。

リアルの関係だとどうしても話題に挙がる、学校の事、仕事の事、家族の事、人間関係の事、そういう現実世界に引っ張られて付随する話題の一切合切を置いておいて、嬉しい、楽しい、とか感情的な部分で話が出来る関係。やっぱり特別です。

私はVRはまだ殆ど経験が無いですが、MMORPGは一時はまっていました。MMORPGだと自分のアバターとしてのキャラクターを作るので外見的な印象は発生しますが、外見を変える事が出来るので、そのアバターの外見の持つ情報と言うのは絶対的なものではないです。

Webチャットにおいて、気分で発言文字色を変えるように、MMORPGにおけるアバターの外見もある程度の決まりはあるとしても絶対的なものではなく、自分の気持ちの延長線上に存在するもの。つまり、外見がありきの内面ではなく、内面の気持ちを表現する為のアバターの見た目です。

この作品ではVR空間の中でお互いが所謂ネカマな状態でおっさん二人が女学生とグラマラスなけもの耳キャラになっていますが、(露出度に関するツッコミはあるものの)その姿については割とスルーされてるのが、とてもネットらしくて、自然だなぁと感じました。

VRは特にそうなんでしょうが、外見にはそんなに意味は無いんです。可愛いからこのアバター、格好いいからこのアバター、そんな気持ちを反映させただけの器。

そんな、自分にとってはネットで体験してとても理解出来る感覚なのだけれど、その感覚をもっともっと強く実感出来るであろうと信じて疑わないVR空間での気持ちのふれあいを描いたこの物語は、近い未来確実に訪れる、人によっては既に結構前から体験している、現実が舞台の話として楽しんでいました。

そして書籍版を読んでの本編最終話と追加収録のエピローグ。リアルの一切合切を取り払った空間で出会い過ごした関係において、一番大切なものは何か。これって実際の人間関係においても同じだと思うんですが、気持ちから最初の知り合ったVR空間で語るから、余計にその純粋さが際立っているように感じました。

最後になりましたが、書籍版を読んで一番感動したのは表紙のカラーイラストでした。白黒で描かれたWeb漫画がVR空間の心のふれあいだとしたら、書籍(DL版含む)という器がついて現実世界に存在する事になって、気持ちが形になって出現した輝きを感じるような素敵なイラストでした。



義実たか ヤる時はあっちの姿を選んでいる、っていうのはつまり、
あっちの方が良い、と二人とも思っているんだろうな、と。
転じて。
誰もが望んだ姿を得られるのなら、つまり外見や能力、ステータス
に個性はなく、個を決定しうるのは…なんなのだろう。

そう考えると、1部で通り過ぎようとする車を追いかけた事。
2部最終話、オッサンの姿でありがとうと言った事。

VRが美しいからこそ、「そうではない」リアルの二人が尊く思えた
ものでした。


エピローグ、頑張っているナオキが、もう、ね。 (2021/03/16 00:01:14)


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