Marumaru's TinyPlaza

(2024.10.01)(book)あなたへの挑戦状

『あなたへの挑戦状』/阿津川 辰海, 斜線堂 有紀


ここ最近、斜線堂有紀の小説にはまっていたので、もう一冊読もうと図書館の検索システムを叩いて適当な本を探していました。なんか気になるタイトル。競作みたい。これにしよう。貸し出し中だったらしく、暫くすると用意出来た旨の連絡が入りました。

受け取った本の表紙をめくると封筒が付いていました。『あなたへの挑戦状』ほほぉ、読者への挑戦状が付いている作品なのね。私が最初に『挑戦状』に触れたのは確か子供の頃に読んだ『Yの悲劇』だった気がします。物語の中からメタ的な視点に移り変わり、作者からの言葉が降ってくるという展開に驚いたものです。

それはさておき、ミステリの構成、トリックと言うものはもうあらかた出尽くしたと思っているんですが、視点を変えてみればまだまだあるものなんですね。

競作の小説と聞いて最初に浮かんだのは、同じ物語を男女の視点から描く『冷静と情熱のあいだ』ですが、それとは違った形で、このような競作の形もあるのかと驚きました。

挑戦状の内容は作中にも書いてあるのですが、書籍同梱の封筒に入った挑戦状の便箋を開き、中身を読んだ時に、とても深い愛情を感じました。紙という物理媒体を手で開くという体験は想いを膨らませる力があるのだと改めて思いました。

全く感想になっていませんね。ただ、この小説についての事を書くのは憚られるような気がしました。体験する権利を奪ってはいけない。



(2024.10.03)(movie)きみの色

『きみの色』


私が小説や物語を好きなのは、物語や登場人物を通じて自分の知らない世界を覗き見させて貰える、知らなかった事を追体験させて貰えるから。

事前情報ゼロで観たこの作品なんですが、まず、ヒロインの一人であるトツ子と彼女が存在している世界の色彩がとても素敵でした。昔のマーガレット系の少女漫画のような画風と淡い色調、そして多分母親譲りであろうフェミニンな服飾センスに惹かれました。

この物語はファンタジーであり、冒険譚でした。

ミッション系の学校、猫に導かれた先の古本屋、離島の古教会、etc……。引き合いに出したい作品は色々ありますが無粋なのでやめます。

そんな事よりも、それぞれ悩みを抱えた少年少女達が偶然知り合って仲良くなって一つの季節を過ごす。その鎹(かすがい)になっているのが音楽だっているのが、とても眩しかった。

それぞれの悩みを抱えた3人が、ひょんな事からバンドを組んで学祭に出場する事になる。それだけだとよくある青春群像劇で、私も最初はそういう話かと思っていました。だれど、メンバーの3人がそれぞれに曲を作るっていう展開で驚きました。

バンドありきで曲があるのではなくて、メンバーそれぞれが心の内面を吐露する為の表現手段として曲を作っているんですよね。楽器構成だって、テルミン(オルガン)、キーボード、ギターです。リズム隊が居ない!一応打ち込みで何とかしてるけど。でも、そんな楽器構成なんてどうでもよくて、みんなが好きな楽器を奏でて、歌いたい人が歌えば良いんだ。その結果出力されたものが彼ら彼女らの音楽なのだから。

そして、そうやって限られた青春の一頁を輝きながら必死で駆け抜けている若者を応援する大人の姿が素晴らしかった。具体的に言うとシスター日吉子さんが。トツ子の隣で悩みを聞くけれど、決して否定せずに可能性を提示してくれる大人。そして最後に明かされる彼女のギャップ萌え。

聖歌や反省文は何の為にあるのか、どうあるべきかを良い意味で拡大解釈して、今の思いを気持ちを感情を紡いだものは、反省文であり聖歌足り得ると言い切ってしまうロックな大人。そうなんです、白黒はっきりしない灰色の部分を最大限に拡大解釈して若人の益とし、その事に対する責任を負うのが大人なんですよね。

色んな悩みを抱えた若者が居ます。だけど、みんな真剣です。そんな若者の悩みを言葉を真っ直ぐに正面から受け止めて、大きな愛と余裕で受け止めて、好きなようにやりなさい、と送り出せる大人達の姿に目が行く歳になっていました。

そして、青春時代の輝きというものは、どこを切り取っても掛け替えのない唯一無二の冒険譚として成立するのだと思いました。限られた時間の中で必死に輝こうとしている若者の姿は、それ自体が物語なんですよね。感性や行動力、体力が無くなっている現状を鑑みて、物語を通じて眩しく輝いている記憶の欠片に触れられた事はとても幸せでした。

EDで気づいたんですが、この話って舞台が長崎だったんでしょうか?(後で確認します)。だとすると、ミッション系高校の存在を始めキリスト教の浸透具合、離島への連絡船、坂の多い街も納得出来ました。

余談ですが、この物語を見た後に、トツ子ときみに対して百合だとか言ったり、トツ子がルイに接するきみに見た色の輝きが恋と呼ばれるものだったりと言う事を考えたりするのは邪推であり野暮なのでしょうね。

最後に、もしかするとトツ子は将来、世界の色を感じられなくなってしまうかもしれません。ですが、その感性は残るであろうし、それまでに培われた感覚は性格としてトツ子に根付いているものだと思うし、そうであって欲しいと願うものです。

もう一つ。この物語のタイトルは『きみの色』で「きみ」が平仮名なのはダブルミーニングだとは思いますが、その上で。物事の色を感じる事が出来る、婉曲的に言うなら少し独創的な子であるトツ子が色を観る心を通じて知り合った人達との経験が、その人達の瞳に移った自分の姿が、トツ子が纏っている色彩であり掛け替えのない宝物なのだと思います。


2024.10.03 追記

さっきこの映画の話をしていて、書きたい事を思い出しました。

水金地火木土天アーメンが良すぎる。相対性理論っぽさがある。

この映画ってエンターテイメントではないんですよね。純文学寄りのジュブナイル小説のような映画。

結局名前を挙げてしまいますが、ジブリ映画のような雰囲気を感じました。具体的には魔女宅とか耳をすませばとか、マーニーとか。

何かを心に抱えた、隠したもの同士が音楽を通じて繋がっていく。心に秘めた想いを語る為の手段は告解ではなく音楽。それぞれの作った曲に声を乗せて演じれば、それは聖歌であり讃美歌になる。その場所を包む色彩はとても優しくて暖かい。やっぱり良い映画ですね。与えられたものを楽しむエンタメとは違って、観た後に自分の中から湧き出るものがある。

ルイ君のギークっぷりがいいんですよね。演奏楽器にテルミンを選ぶところもですが、使ってるPCがThinkpadだったり、DAWはCubaseだし。きみのギターが兄から譲り受けたものでリッケンバッカーだったり、拾ってくるキーボードがCASIOの名機SA-46だったり。細かいところで楽しめました。

きみがバイトをしていた古書店。バイト中にギターの弦張り替えられるぐらい暇なのにバイト雇ってる古書店なんて……って突っ込みましたが、ファンタジーですもんね。きっとあれです、不労所得がたっぷりあって所有不動産に風を通す目的で道楽経営してる古本屋なんですね。女子高生のバイトを雇って「マスター暇ですねー、このままじゃ潰れちゃいますよ」って言わせてる喫茶店のような。

余談ですが、古物商って売り上げよりも、価値のあるものをどうやって仕入れるのかの方が気になってしまいます。

後で調べたんですが、この映画ってやっぱり長崎が舞台でした。やっぱり趣のある教会は長崎ですよねぇ。シスター日吉子と話していた教会や、離島の教会って参考元があるんですね。前者が佐世保の黒島天主堂、後者が五島の旧五輪教会堂。これはまた行ってみたい。

最後のライブの舞台って旧海軍佐世保鎮守府凱旋記念館だったんですね。このホールですが、実は以前に行ってました。

作中に登場した機器やソフトもですが、物語の中で登場した場所に実際に訪れていると、物語と現実がリンクしたような感覚になって良いですね。

それと、この映画を観た時は劇場が貸し切りでした。シネコンの中で一番小さなシアター。22:30からの上映で観客は私一人。上映が終わり日付が変わった後にシアターを出て、半分灯りの落ちたショッピングモールの中を誰にも会わずに駐車場まで向かいます。外は土砂降りの雨。雨の中、不思議な気持ちに包まれて駐車場の誘導灯に沿って車を走らせます。そんな一連の非日常感を味わえた事が本当に嬉しい。ある程度大きな映画館に行くと最終上映でも結構人が入ってたりするので、この誰も居ない場所を歩いて行く感覚って味わえないんですよね。

誰も居ないシアターで上映が終わり、灯りが戻り自動音声が流れる、それに従って誰も居ない劇場を後にして、無人の道を歩き駐車場に向かう。良い体験でした。



(2024.10.03)(movie)機動戦士ガンダムSEED FREEDOM 特別版

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』特別版


劇場版SEED FREEDOMが年末のBD/DVD発売に際して、500カット超のカットを修正した特別版を収録するとの事。DVDにディレクターズカット版入るのはよくある話、と流していたら、なんでも期間限定でDVD収録予定の特別版を劇場上映するらしい。しかもエンディングにDVD未収録カットを追加するらしい。しかも、上映は2回に分けて行われて、エンディングの追加カットは変わるらしい……。

うん。劇場に6回も足を運んだ映画だし、もう最後まで付き合うよ。修正カットはDVDで観られるとしても、追加カットはこのタイミングでしか見られないんだから、この体験には価値があると思う。後で観たくなって1回目の上映を観とけば良かったと後悔するのは嫌だし。それに、この最後のダメ押しでガンダム映画史上初の興行収入50億達成の一助になれば。

で、結果的にこの判断は大正解でした。自分を褒めてあげたい。

ほぼ箇条書きの殴り書きです。ご容赦下さい。


えっと、もう本当に修正されているカットが多いです。ほぼ全てに手を入れてるんじゃないかってレベル。最初の劇場版は綺麗だったんですが、全体的にアナログ的な補正、一種の汚しが入っていています。それに光の処理が入っています。ライティングやビームの煌めきみたいな処理。この光と汚しの処理によって映像にメリハリがついている気がします。

表情や色合いについても全体的に修正が入っているように見えます。アップだと特にですが、少し特徴的に感じられた表情が全体的に自然になって、リップを始めとした色調のトーンが抑え気味になって優しい感じになっています。口パクや身体の動きも増え、表情や仕草の修正で心情が伝わりやすくなっています。

全体的な背景の描き込みの増加、カットイン処理やモニタ系の描写が細かくなっています。それにアクションシーンも大幅に修正され、見ごたえがあるものになっています。足技の追加多すぎ。

流石に劇場6回とアマプラで数回観ているだけあって、修正点はかなり気づくんです。最初の劇場版と違うをいう違和感を覚えた部分、その違和感が全てプラスの方向に変わっている違和感なんですよ。こんなに嬉しい体験は滅多にないです。6回観に行った経験は無駄じゃなかったんだ……。

最初の劇場版で何点かあった、どうしても気になっていた違和感。それも殆ど直っていました。

  • ラクス一行がファウンデーションを訪れた時、パイロット組が帽子を被っていなかった点。
  • ラクスがアウラの前でお辞儀をする時の不自然な足の曲げ方。
  • ラクスがオルフェからダンスに誘われた時の不自然な手の上げ下げ。
  • キラとアスランの殴り合いのシーンのマリューさんのセリフ。言い回しがどうにも冗長で口語として違和感があったんですが、セリフをカットする事で自然な言い回しになっていました。

この辺り、見る度にどうしても違和感を覚えていたので直っていてよかった。なんかラスク絡みばかりですね。なんですが、ラクスとキラがツーリングしている時のラクスが後部座席に普通に座っているシーンは修正入ってなかったんですよね。あれ、ちゃんとしがみついてないと危なくて仕方ないと思うんですが。

細かい部分ですが、ラクスのパーティードレスの色が落ちついたトーンになっていて、オルフェから手渡される花の色と合っていたのは嬉しい。あと、ラクスのネックレスや髪飾りの修正も。

アグネスの髪の毛にグラデーションが入っていて、すごく見映えがよく可愛くなってました。

ラクスがオルフェに押し倒されるシーン、ちょっとパワーアップしてました。

オルフェとイングリッドの最後、爆発前にイングリッドがシートを離れてオルフェに駆け寄るシーンが瞬間的に追加されていました。イングリッドは悲恋過ぎてもう少し報われて欲しかったのでこれは本当に嬉しい。

今の記憶をもとに、もう一度アマプラで最初の劇場版を見直せば細かい修正点をもっと探し出せるのでしょうけれど、そんな不毛な事はしません。そして、本当に良い修正点が多くてまさに完全版と言える内容だったので、年末発売のDVDを買いたいと改めて思いました。

あまり書いてませんがアクションシーンやメカニックシーンの修正は本当にすごいです。ゾクゾクする。

アカツキ光り過ぎ、最高かよ。

そして、EDのバックに追加されたイラスト、EDの追加カットについて。これはもう本当に劇場を観に行った人の特典なので内容は語りませんが、本当にここまで追ってくれた人へのファンサービスでした。行って良かった。 ちなみに、劇場には7人ぐらい居たのですが、全員ソロで中央付近の席を1席ずつ空けて座っていました。そして、EDが終わって映倫の文字が出て暫くしてから追加カットが始まったのですが、誰一人途中で席を立つ人はおらず、皆、古兵だと確信したのでした。




<(2024.09.23)(book)君の地球が平らになりますように