Marumaru's TinyPlaza

(2025.06.18)(book)月は無慈悲な夜の女王

『月は無慈悲な夜の女王』/ロバート・A. ハインライン (著)、矢野 徹 (翻訳)


SF小説って邦題が格好良い作品が多い気がします。その中でも個人的に邦題が格好良くて気になっていた3大作品と言えば、『星を継ぐもの』、『天の光はすべて星』そしてこの『月は無慈悲な夜の女王』でした。

この本、図書館で借りようとしたところ、最寄りの館に無かったので、他の市から取り寄せてくれました。が、返却期限までに読み切れず、多感取り寄せなので延長も出来ずどうしようかと思っていたら、この本を借りた館に返す便が出る前日までは借りていても良いと言って頂き、何とか読み終える事が出来ました。

この本、700頁近い大作で。それは良いんですが、文字の行間と余白がとても狭いんですよ。頁をめくる指に端の行がかかって隠れるぐらい。

WORDでとにかく文字数を入れたい時に作る、余白を一番小さくして一頁の行数・文字数を根限り増やす書式あるじゃないすか?あんな感じ。そして翻訳作品独特の読み難さもあり、読むのにがっつり一週間ぐらいかかってしまいました。なんだろう、この後だと余白多い会話中心のラノベなんてマンガ感覚で読めてしまいそう。

内容は地球と月との自治権争いを描いた物語です。地球の受刑者を月に移住させたことから始まる月世界での生活。世代を経て、月で生まれ育った者達が不当に虐げられている境遇に立ち上がり、地球による制圧から独立しようとするストーリー。

50年前の作品なのに今読んでも違和感が無いのが驚きでした。流石古典SFの名作。と言うかSFってこの時代に完成していたんですね。直接的な戦闘ではなく、独立をする為の組織の作り方、考え方、政治的な交渉などに重きをおかれているので時代を超えた普遍性に溢れています。技術的な部分も、やりたい事を書いて、それを実現する為の装置、みたいな書き方なので、今の技術に置き換えて読む事が出来、本当に50年前に書かれたのが信じられない内容です。

月世界側のキーパーソン?として、「マイク」という人工知能が居て、彼と会話をしながら問題を解決する事が多々ありますが、この人工知能とのやりとりが本当にそのまま昨今の生成AIとのやりとりに酷似していて、まさに今の最新技術のように読む事が出来ました。50年前にSFとして描かれていた事が部分的にでも今実現しているのは感慨深いです。

しかし、今まで色々な物語に触れていたおかげで、後半の怒涛の展開を読みながら興奮と共に何とも言えない不安感を覚えていました。それは、独立チームのブレインである「教授」と人工知能「マイク」に対するものです。この二人がどうにも裏切りそうな、もしくは良くない事を企んでいそうなフラグを感じてしまって、最後がバッドエンドになる予感がしてたまりませんでした。

が、そこは古典名作。この作品が原点として色々な物語が作られていったのですもんね。色々と穿って物語を読んでしまった事に、今のこの時代に古典を読む弊害を感じたように思います。想像していたよりもずっと素直で広がりがあり、考えさせられる終わり方でした。

宇宙に移住を始めた事に端を発する地球と月(宇宙)との抗争と言うと、どうしても1stガンダムを思い浮かべてしまいますが、そのガンダムの構想の元とも言われること作品に触れる事が出来て良かった。何事も温故知新と言うか歴史を学ぶ事は大切ですね。

余談ですが、エアーロックを漢字で書くと「気閘」というのを初めて知りました。



(2025.06.19)(book)オルクセン王国史 2巻

『オルクセン王国史~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~』2巻/樽見 京一郎


最高に面白くてワクワクした。

本を読んでいて血沸き肉躍る興奮を覚えたのは久々かもしれない。

よく言われる事だけど、戦争であれ行事であれ、大切なのは準備・段取りであって、段取りが完璧であれば当日は落ち着いて成り行きを眺めるだけ、本番になって慌てる事は何もない。

そして、これもよく文化祭に例えられるけれど、文化祭は準備期間が一番楽しいんですよね。目標に向かって計画して話し合いをして、行動をして、その中で団結が生まれる。そして本番が近づくにつれて高まる興奮。いざ本番を迎えればあれほど時間をかけて準備したあれこれはあっという間に消化されてしまって、瞬く間に終焉を迎える。

だから、関わった人達が後日談として感慨深く語るのは、その準備の部分での苦労話な訳で、実際に聞いていて面白いのも本番で〇〇をする為にどれだけの苦労があったかと言う部分。


閑話休題。

この2巻では、オルクセン王国がエルフィンド王国への開戦準備を1冊丸々使って描かれています。これが読んでいて本当に面白い。来るべき日に向けて、熱い情熱を胸に虎視眈々と準備を積み重ねる様子。

そして、エルフィンドの落ち度から開戦の大義名分を得てからの開戦までの流れが本当に熱い。開戦の伝令「白銀(ジルバーン)」が流されてから2巻最後の開戦の瞬間までは本当に興奮してしまって、ページをめくる手が止まらなかった。

今まで積み上げてきた物事が、陽の目を見る為に一斉に動き出す。その堰を切ったような人やモノ、そして熱量の奔流が文章を通じて流れ込んでくるようでした。

なんかね、このまま勢いで3巻を読みたいのだけれど、一気に読むのが勿体なくて、こうやって一息おいて感想を書いているぐらいには楽しんでる。

最後に、作中の言葉を引用して感想の締めとします。

軍とは。
軍隊とは。
ある日突然何処かへと、魔法のように出現するものではない。断じてそうではない。

『オルクセン王国史~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~』2巻/樽見 京一郎



(2025.06.20)(book)オルクセン王国史 3巻

『オルクセン王国史~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~』3巻/樽見 京一郎


3巻もとても面白かった!

3巻でエルフィンド王国に対する戦争での戦闘が始まった訳ですが、2巻を丸々使って万全の準備の様子を描いていたので、実際の戦争が始まった後は予定調和と言うか、段取りの結実を眺めるだけ、みたいな無双が展開されるものと思っていました。

でも、そうではなかった。いい意味で予想を裏切られました。

まず、戦争が始まった瞬間(もしくは開戦前)から始まっている財務方の立ち振る舞いが熱い。彼らは戦争が終わった後の疲弊した国を如何に盛り立てるのかを考え、未来を見据えた戦いをしています。

オルクセン国内においては、国債を使った戦後の国の購買力の増強。戦争が終わって内需が減少しているところに利子を付けた現金を渡して、インフレに注意しながら内需を刺激。そして、それだけでは補えない部分は敗戦国となったエルフィンドを自国の領土にしてしまえば、そこには経済的に肥沃な大地が広がっている、という考え方が素晴らしい。

その為に軍票を使ってエルフィンドの中にオルクセンの経済圏を作っておき、エルフィンドの体力・心情を削り過ぎないように、現地聴衆は計画的に行い、占領後も治安維持に努める。終戦後にオルクセンの領土、オルクセン王国の一部になる事を予想し、インフラを整備しながら進軍し、港や橋も出来るだけ破壊しない状態で勝利するという考え。

ただ勝つだけじゃないんですよね。勝つのは前提で、その後で広義においてのオルクセン王国をどのように発展させていくかを見据えた作戦。戦争は目的じゃなくて自国を更に発展させる為の手段の一つである、と。

そんな中で、戦争の実戦が始まり兵士達が前線を駆け抜けている時も、終戦後の国の繁栄を考えている金融方の戦いが読んでいて本当に胸躍ります。兵站方、金融方など一見裏方のように見えてその実、国を支える大動脈となっている人達の静かなれど熱い戦いたるや。


そして戦闘の方ですが、120年に渡る用意周到な準備に基づいて圧倒的な快進撃をして終わるのかと思いきや違いました。基本的には快進撃なんですけどね。

ディネルースの生まれ故郷である村で繰り広げられた戦闘、その状況がもうね……。アンファングリア旅団一同の気持ちがディネルースを通じて染み出ているんです。そして、それを分かった上でのグスタフや他の仲間達の態度が。

ちょっと話は逸れますが、この作品の魅力の一つはグスタフの人柄、と言うか人たらしっぷりだと思います。それも言葉だけではなく、贈り物と手紙を通じて人の心を骨抜きにする生粋の人たらしっぷりが、良い意味でいやらしいな、と。こんなん惚れるわ。

そんな戦争の中において、比較的苦戦を強いられている海軍の重い空気を振り払ってくれる、通称『鉄屑戦隊』。彼らの牧歌的な雰囲気と温かみが物語の良い緩衝材となっている……と思っていた時もありました。

この物語、基本的にはグスタフの圧倒的な能力によって兵站を極限まで極めているから、戦闘は基本的に無双に近い状態ですが、そんな中において珍しい、圧倒的に不利な状況下での戦い。その孤軍奮闘はまるで普通の冒険譚を読んでいるかのようで、何と言うか不思議な感じでした。でもここが本当に熱かった。目頭も熱くなった。

2巻とはまた違った意味で楽しませてくれた3巻でした。これからは戦争を通じて、今まで描かれていなかったエルフィンド王国の内部事情が明らかになっていくとの事でとても楽しみ。

個人的にはグスタフとディネルースとの関係がとても気になるところなので、続巻で掘り下げられていると良いな、と。



(2025.06.23)(book)オルクセン王国史 4

『オルクセン王国史~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~』4巻/樽見 京一郎


現在放送して個人的にはまっている大河ドラマ『べらぼう』ではないですが、4巻を読んで「こう来たか!!」と唸ってしまいました。

破竹の勢いで進軍するオルクセン軍に対し、城塞都市を捨てて敗走するエルフィンド軍がオルクセンに一矢報いる方法。それは、大量の捕虜と難民を発生させてオルクセンの兵站にダメージを与える事!この部分読んだ時に本当に目から鱗でした。

兵站を極限まで突き詰めている軍に対して、そのキャパを上回る人口を投げつけて兵站を麻痺させる異次元からの攻撃。こう言っちゃなんですが、侵略した軍の兵や市民は暫く貧しいのも致し方ないと思うんですよね。戦争なんだし。

ですが、そこは兵站に対する矜持があるオルクセン。将来自国の領土になるであろう国だから、諸外国の目があるから、そんな理由もあるかもしれませんが、もっと純粋に目の前の人々を飢えさせたくないという気持ちを感じるんですよね。そして、何かを削るではなく、もっと沢山送り込んで解決するという王道を往く解決法。

正直、このバックヤードの戦いをもっと読みたい気持ちがあったんですが、割とさくっと流れてしまってそこだけが少し残念。

そして、戦いはエルフィンドの狙いが分からないまま不気味な状況。そんな中でいよいよアンファングリア旅団との全面対決が予見されて、もう本当にどうなっちゃうの!?っていう心境。最初はオルクセンの圧勝かと思いましたが、枯れても栄華を極めた大国に攻め込んで痛みなく勝利を収められる訳がないですね。



(2025.06.28)(movie)オール・ユー・ニード・イズ・キル

『オール・ユー・ニード・イズ・キル』


※ネタばれありで書いています。



















































機動戦士Gundam GQuuuuuuXの話をしていた時に勧められた映画。

鑑賞中に、同名小説ラノベが原作だとリプライで教えていただきました。どちらも知らなかった自分のアンテナの低さに絶望した。


いわゆるタイムリープものなのですが、ストーリーがシンプルで分かりやすかったです。タイムリープものって因果律やタイムリープの仕組み解説、バタフライエフェクトやタイムパラドックスなどでとかく物語が複雑になりがちだったので。

今作は、とにかく『目の前のエイリアンを倒して地球を護れ!失敗したら死んでやり直せ』というシンプルさがいいです。地球防衛軍(UDF)のようなストーリー。まさにハリウッドのアクションエンタメって感じでした。観ていて「USA!USA!」と聞こえてきそう。

なんですが、パワードアーマーを使った派手な戦闘の繰り返しで心をがっつり掴む導入から、ループしながら正解ルートを見つけていく攻略的な楽しさ、ゲームのクリア方法が分かった時のアハ体験、そして残機0になってからの最終決戦とまったくダレる事なく最後まで観れました。

特に輸血によるタイムリープ能力喪失は、絶対に起こりうるであろうというフラグがありましたが、最高に盛り上がるタイミングで持ってきていて、分かっていながらも観ていて手に汗握りました。タイムリープの繰り返しで色々と麻痺しているところでの残機0のラストチャレンジというのは滾る展開です。

そして、ラスト。もう男女が絡むタイムリープものの終わり方はこれをやっておけば間違いない!という終わり方ですよね。今まで数多のタイムリープ作品で見た終わり方ですが、素材の美味さを活かした王道と言うのはやっぱり気持ちいい。と言うか、トム・クルーズとハリウッド大作だったら奇を衒わず王道が良いですよね。

頭を空っぽにして観られる気持ちの良い映画でした。

余談ですが、タイムリープのかなり序盤の工程である、『スクワット中に緊急回避で軍用車の下を潜り抜けて訓練を逃げる』という工程が地味に難易度高くて、ここで失敗して自傷リセットした回はコントローラー投げそう。その度に毎回ハートマン軍曹上官のシゴキから始まるし。

あと、タイムリープものは他の作品を引き合いに出して説明するどころか、作品名を挙げるだけでネタバレになるのでもどかしいですね。



(2025.06.30)(book)本と鍵の季節

『本と鍵の季節』/米澤穂信


『氷菓』でおなじみの<古典部>シリーズの作者。最近だと直木賞の『黒牢城』が有名。

ひょんな事から見かけたこの本の広告で、表紙の硝子のような透明な雰囲気とあらすじに惹かれて。

日常に潜むミステリーを描いた短編集で、図書委員の二人が探偵役になって謎を解決……と言うか謎を語り明かします。

ちょっと突拍子もない謎をヤレヤレ系の二人が話ながら進んでいく物語に、何よりも高校生、ひいては学生時代って良いなぁ、と思いながら今ではもう記憶と地続きではなく、記憶から断絶されたファンタジーとしてしか楽しめなくなってしまった学生時代に思いを馳せていました。

そんな日常系ミステリーかと思っていたのですが、最終話とその前の盛り上がりが凄かった。ふと芽生えた違和感をきっかけに話が思いがけないシリアスな方向に膨らんでいきます。面白いのは、日常モノだと思っていたそれまでのエピソードが最後の話の為の布石だったこと。何気なく読んでいた日常パートが後で重要な意味を持っていたという展開は好きです。

この巻で一旦の区切りは付いていますが、続きを匂わせる終わり方なので、シリーズ続編でどう展開していくのか楽しみです。




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