Marumaru's TinyPlaza

(2012.01.02)(book)誰か

「誰か」/宮部みゆき


以前に感想を書いた「名もなき毒」のシリーズです。と言うか、この「誰か」がシリーズ1作目で、「名もなき毒」は続編になります。「名もなき毒」を読んだ後にシリーズである事を知ったので遡って読んでみました。

このシリーズは読みやすくて好きです。決して内容が軽い訳じゃなくて、小気味良いテンポで話が進むので気づいたら読み進めてしまう、そんな本。話の内容も複雑ではないので、空いた時間にちょこちょこ読み進められます。こういう本はありそうで中々無いです。

ストーリー展開も「国家機密に関わるような大事件」や「人類の存亡をかけた戦い」みたいな大袈裟な話じゃなくて、ごく普通に想像出来るような日常を中心に話が進んで行き、徐々に話が盛り上がり、最後は見事な落とし方で〆る起承転結のお手本のような話。流石は長い事一線で活躍している作家と言わざるを得ない安定した展開でした。

このシリーズの面白いところは主人公の設定の妙だと思うんです。それはつまり、「日本有数の財閥企業会長の一人娘の婿養子」であり、「心臓が弱い娘に安心した生活を送らせる為に財閥の権力争いには決して関わらない」事を求められ、「グループ企業の機関紙を出版する会長室直属の小さな出版社」に勤めている設定。

だから大人しいおっとりとした主人公なのに、生活水準が(贅沢では無い程度に)高く、義父である会長を通じて色々とコネがあり、仕事は比較的暇で自由がきくと言う面白いキャラクターが出来上がっています。そのおかげで、探偵役が本職の刑事ではなくて会社務めのサラリーマンが仕事の合間に取材を兼ねて調査を行い、最終的に出来事の解決を読者に伝えてくれるという話になっています。この適度な"ゆるさ"が気楽に読める一因なのかもしれません。

何よりも、作品のテーマが明るい……もとい、暗すぎないのが読後感を爽やかにしてくれました。「名もなき毒」は考えさせられるテーマでちょっと重目でしたから。

何か適当に読む本を探しているなら、候補に入れて欲しい一冊です。




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