Marumaru's TinyPlaza

(2016.07.03)(book)ままならないから私とあなた

『ままならないから私とあなた 』/朝井リョウ


人間関係におけるそれぞれの譲れない価値観。その違いについて書いた物語が2編収録されています。

他人と親しい関係を築くには、自分の恥ずかしい部分を晒すべきだ、そうしてお互いに汚い部分も含めて共有することで絆が結べる。これって割とよく言われることで、一つの考えとして正しいと思います。自分の手の内を先に相手に晒すと相手が親しみを持って受け入れてくれる事はありますから。

ですが、自分はこれだけの事をしたのだから、親しい相手なら同じような事をすべきだ。(しないと親しいとは思わない)という考えの裏返しかもしれません。こういう考えを持っている人が人間的に好きで、それを分かっているから、好かれるキャラクタを演じるようになると、それはお互いにとって本末転倒ですもんね。

別に自分の弱みや恥ずかしい部分を敢えて晒す必要はなくて、相手と楽しく良い関係を作れるようになれるであろう事を話ながら関係を深めていく。そして、その過程で自分の弱み等を話題にする必要があると思ったら話せば良いんだと思います。それが思い遣りというものなのかな、と。

人との縁は色々なキッカケがあって、それぞれの人と楽しく過ごせる話題、振る舞いがあります。強いていうなら、そういう事を深く考えずに自分の自然に近いキャラクタで楽しい時間を過ごせる関係と言うのが、親しい関係の一つの形なのかもしれません。

そんな事を考えさせられた話が一つ。もう一つも価値観の違いの話なんですが、一つ一つの手作りであったり、良い意味での限定品、良い意味での手間、試行錯誤の過程、ブレや揺らぎ、そういった人間的と言われる事を良しとする考えと、ネットに代表される徹底的な合理主義を持つ二人の話。

こちらの方がテーマとしてはよくある話で馴染みやすかったです。この話の中の意見の対立の一つとして、「恋人との関係」が挙げられています。好きな人に対してドキドキする気持ち、この人じゃないとダメだって気持ち、は合理化云々じゃ決して割り切れない、何も省いちゃいけないものなんだ。みたいな事を言っていたんですが、これを読んだ時に頭に浮かんだのはVR(仮想現実)でした。

今は、恋人と関係については前述のような考えを大多数の人が持っていますが、将来、全て自分の好みに精巧に作られたデータ――人格、声、容姿、etc……。そんなものがVRで立体的な視覚、聴覚、更には嗅覚や触覚と一緒に提供された時、果たしてその意見はどうなるんだろう?と。

そして、このテの話になると、合理主義は心が無い、人間の暖かみが~って話になる事が多いですが、タイトルの通りお互いの身に「ままならない」事が生じた場合、お互いの主張が持つ意味合いは少し変わってくるのかもしれません。

全編を通じて、異なる価値観は決して理解しあえるものではない。そして、熱い感情論が現実の前に打ちひしがれる絶望を描いている作品でした。

それにしても、最後のオチ、予想とは違ったものだったんですが、少し意地の悪さを感じました。




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