Marumaru's TinyPlaza
(2018.06.14)(book)spotted flower(3巻まで)
『spotted flower』(3巻まで)/木尾士目
「げんしけん」は斑目と咲ねーさんの話だと思っているんです。
オタクサークルのあるあるな感じや2代目の面子も好きですけど、斑目と咲の関係、そして二人を取り巻く人達の空気がとても好きです。この作者は「四年生」「五年生」の頃から、二人の間に流れる空気みたいなものを描くのがとても上手い人だと思います。
「げんしけん」本編では斑目はスーと結ばれ、咲ねーさんは高坂と結ばれる訳ですが、この話は斑目が咲と結婚して、妊娠しているところから始まるifの物語。と言うか、登場人物がげんしけんの斑目と咲だとも名言されていない辺りがニクいです。
他にも「げんしけん」の登場人物(と思われる人物)が多数登場しますが、正式な続編・スピンアウトだと名言せずに、「もしかしたら、そんな未来もあったかもね」とでも言わんばかりの演出が良いです。うん、オタクは想像力だけはあるから、仄めかしてくれれば良いんです。後はこっちで好きにやるから。
この「そんな未来もあったかもね」っていうのは、「げんしけん」での咲ねーさんの台詞なんですが、この台詞と表情から伝わる咲ねーさんの優しさが本当に好き。そして、ここで示唆された未来の形の一葉を、作者自身がifと名言せずに描くって、何というか「げんしけん」らしいと思いました。
何より、「げんしけん」自体がとても好きで、その中でも特に斑目と咲ねーさん、そして二人を取り巻く人達がとても好きな自分にとって、2代目で一旦一区切りになったと思っていた「げんしけん」の世界が続いている事が何よりも嬉しい。
あったかもしれないifの世界の物語という事で、斑目と咲ねーさん(と思われる二人)に関しては、二人に対する気持ちを心の片隅に置いたまま、ほぼ別の登場人物としてみているかもしれません。原作の展開からすると、原作終了後にこの展開にもって行く未来に続く糸は手繰り寄せる事は難しそうだったので、原作のだいぶ序盤から世界が分かれてるって解釈をせざるを得ないんです。
その代わり、途中でちょくちょく登場する「げんしけん」絡みの登場人物(と思われる人)については、本当に同窓会を眺めているような不思議な感覚です。それぞれ、2代目終了後に結構ぶっ飛んだ未来が訪れたようで。しかし、キャラクターの芯がぶれていなければ容姿については少々変わったところでそんなに違和感を覚えないものです。これは実際の人間関係においてもそうですね。
そんな斑目を取り巻く人間関係の中で特に波戸が良い味出してるなぁ、と。個人的に、仕事が超忙しいのに好きな人との用事が入って、好きな人の前では思いっきり余裕を見せて振舞って、その後で凹んで仕事を頑張って片付ける。ってシチュエーションに弱かったりします。WiteAlbum2でもそんなのがあった気がしますが。
(中略)
この「Spotted Flower」で描かれている要素だけを取り上げると、決して万人受けするものじゃないような気がしますし、自分自分も積極的に好きとは言えない要素が多いんですが、げんしけんの下地があるからなのか、とても自然に読めました。むしろ、色々な外的要因があるからこそ、その内側の気持ちが素直に伝わる。そんな描き方をされているような気がしました。
その最たるものが、上で画像を貼った波戸です。色々と、本当に色々とありますが、根底にあるのは本当に素直な気持ち。だからこそ悩んで苦しんで喜んで、戸波絡みの部分を読んでいる時の感覚って、完全に少女漫画です。しかし「げんしけん」では頑なに守った一線を、予想外の方向で軽々と超えてきましたねー。キャラが明記されていないからこそ、それに前提として咲が妊娠しているところから始まっているからと言うのもあるんでしょうか、ちょっと驚きました。
余談ですが、タイトルの「Spotted Flower」ですが、Spottedは斑っていう意味もあるようなので、斑目と咲(Flower)の物語っていう意味で良いんでしょうかね。
それにしても、存在だけは知っていたこの作品、もっと早くから読んでいれば良かったと思いました。