Marumaru's TinyPlaza

(2020.05.02)(book)一生好きってゆったじゃん

『一生好きってゆったじゃん』/横槍メンゴ


恋愛をテーマにした短編集。なんですが、恋愛……なのかな?

7編収録されているんですが、どの話もヒロインが純粋で一途です。作中の言葉を借りるなら、境がない感じ。ラインを引かずに、どこまでも真っ直ぐに。激しい衝動ではなくて、それが当たり前であるかのように淡々と粛々と。

そもそも、ヒロインと対象の想いが交わっていない話が多いんです。想いが、交わって行き来するのではなくて、一方通行の想いがただただ通り抜けていく感じ。だから、話に落としどころが無い。話の終わりがヒロインの感情の終わりではなくて、話が終わっても、いつもと変わらないように淡々と流れていく想いの通過点を切り抜いているんです。

そんな辿り着く場所の無い想い-魂と言っても良いかもしれない-、のお話。絵柄も相まって、ぱっと見た目は爽やかに見えてしまうんです。だけど、救いようの無い水底を見せつけられるような力がありました。

一番共感したのは、最後の「南無阿弥だいすき」。好きなアーティストに憧れて彼氏になる話です。大好きな人に憧れるでもなく、ただただ好きだから、自分の神様で居て欲しいという気持ち、とてもよく分かるんです。そして、その人が自分に興味を持ってくれても、自分には何も与えられるものがないから、やりとりが出来ないという気持ちも。

自分に興味を持ってくれた憧れの人を、自分の「コンテンツ力が低い」から、相手には神様で居て欲しいから、自分のところまで降りてこないで。と言えるのが切なくも純粋なんだと思います。こちらからの一方的な想いで十分で、それで満たされている。だから、相手の気持ちがわずかばかりでも自分に向いてしまうと、戸惑ってしまう。自分には返せるものが何も無いから。

全編を通じて感じたのは、一方的な想いを受け止める……拠り所となるのは信仰と呼ばれるもので、それは生き方なのかもしれません。

迷いも無い、後悔も無い、ただただ時間と共に流れ続ける想いの重みが、怖い。そんな深淵に引きずり込まれる作品でした。




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