Marumaru's TinyPlaza

(2019.11.12)(book)現実逃避してたらボロボロになった話

『現実逃避してたらボロボロになった話』/永田カビ


この人の漫画は何より絵が魅力的。同じような絵柄がありそうで他に無い良さがあるオンリーワンの絵柄。そして、最初のレズ風俗~から比べて表現力がとても上がってる。伝えたい事がとても分かりやすい。

酔っ払い漫画ってのは基本的にそれだけで割と面白いものなんですが、この漫画は描かれているテーマ自体が興味深いです。

酒に逃げてボロボロになって、こんな事は絶対に漫画になんか描くか!と思った状態から、その事をエッセイ漫画に描こうと思うところまでの意識の変化を描かれていて、人の考えを追体験出来るような漫画でした。

意識が変わったところで終わるので、そういう意味ではオチは無いんですが、そもそもエッセイ漫画だし。

演出も面白くて、昔の少年漫画にあったような2色刷りなんですが、黒と蛍光オレンジのマーカーで塗ったような2色刷りの配色です。ある意味贅沢な気がする。

毎日飲み歩いて、居酒屋の店員さんの挨拶が「おつかれさまです」になった辺りで自分の中で冷めて、飲み歩くのを止めたっていうエピソードがなんか分かる気がする。



(2019.11.24)トンネルの話

子供の頃、母方の実家によく遊びに行っていて、そこで年上のお兄さん達に可愛がって貰っていました。母の実家は山や川の自然に恵まれた田舎で、当時はおばあさんが畑をしていたので、猫車に乗せてもらってお兄さん達と畑仕事の手伝いに行ったものです。

実家から徒歩数分の丘の上に線路が横たわっていて、その下に幾つものトンネルがありました。そのトンネルを抜けて畑に行っていました。畑以外にも、山や川に遊びに行く時も全部トンネルを通っていきました。

トンネルには番号が振られていて、今日は○○の畑に行くから12番トンネル、今日は川に行くから11番トンネル、今夜はお祭りに行くから9番トンネル、今日はちょっと遠くに遊びに行くから7番トンネル。違う番号のトンネルをくぐる度、目の前に違った景色が広がって、違う場所への道が続いている。

トンネルはアスファルト舗装されて車も通れるものもあれば、歩いて通るのもやっとぐらいの小さなものまで、大きさや形も様々でした。それままるで扉のようで、違う扉を開けば違う世界へ続いている。ちょうど当時発売されて、お兄さんに家で意味も分からず遊んだドラクエ2の旅の扉に近いような感覚を持っていたのかもしれない、と今になって思うんです。

今はもう移動の手段が車になってしまって、当時の生活圏なんて一瞬で走りすぎてしまうけれど、当時はトンネルの間が移動単位で、子供の足だとトンネルの番号一つ分移動するのも心が躍る冒険だったんです。

最近、用事があって母の実家に久々に行ってきました。大掛かりな区画整理を施された田舎は、当時の面影はなくなっていて、記憶の中の地図と目の前の風景が一致しない不思議な感覚です。見渡す限りの道がコンクリートに舗装され、川は細く四角い用水路みたいになり、畑だった場所には住宅が立ち並んでいました。

猫車と米袋で歩いた道も、車にスマフォで通り過ぎているんだから何もかも違うよね、と少ししんみりとしていました。

Googleマップで改めてみると、手の中に納まりそうな狭い狭い範囲の地図。当時は、この場所の秘密を少しでも見つけようと隅々まで歩き回っていたなぁ、と。

ラーミアで飛べば瞬く間のアリアハン大陸、ノーチラスで飛べば一瞬の浮遊大陸、一度便利な視点を手に入れたらもう昔と同じには戻れないかもしれないけれど、小さく弱い時代を足で歩いて、一歩一歩視界を確保していった思い出の場所の記憶は特別なものです。(唐突なゲーム脳)

先日の夕方、車で走った時に地元ローカル線が走る線路のトンネルを抜けた時、茜空の下に輝く畑の姿が目に入ってきて、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、遥か昔の自分と意識が繋がったような気がして、懐かしくてこんな記事を書いています。

惜しむらくは、この経験を次の世代に伝えることが多分無いんだろうなぁって事ぐらいでしょうか。まあ、ここに書けたからいいや。ここは、私の好きなものだけを並べた小さな広場なので。



(2019.11.26)(movie)ブレードランナー ファイナル・カット

『ブレードランナー ファイナル・カット』


ターンエーガンダムでシド・ミードの名前を知った時に一緒にタイトルは知っていたんですが、未だに見てはおらず、古典の名作として教養として見ないと……みたいな変な脅迫観念に駆られながらも結局見ないままだったんですが、2019年の11月がブレードランナーの舞台の年と知り、今見ないといつ見るんだよ!ってことで見ました。(PrimeVideoは本当に便利な文化)

この映画が作られた1982年と言えば私が生まれた頃。その時に想像した37年後の未来を、その年をむかえた現在に見る事が出来るのは不思議な気分です。

サイバーパンク?スチームパンク?(違いがよく分かっていない)の作品で見かける「それっぽい世界観の描写」はこれが原典だったんだって思うと、すごく納得しました。やっぱり原典を知らないと、影響を受ける過程やオマージュを正しく理解出来ないですね。温故知新。

空飛ぶ車や、コンピュータ技術、解析技術といった現代で実用化されたりされなかったりした技術を、とてもアナログな手法で実現した未来を描いているのが、とても浪漫があります。だから実際の未来とは違っていても、未来の一つの形として、サイバーパンクやスチームパンクの世界が広く受け入れられているんだろうな、と。

未来の一つの形、所謂パラレルワールド的な考え方はSFでは一般的だと思うんですが、個人的にはシュタインズゲートの物語で実感として根付きました。過去改変や並列世界、それぞれの世界に及ぼす影響についてゲームやアニメという形でとても分かりやすく描かれていましたから。

それと、ストーリーは、思ったよりサスペンス寄りで意外でした。勝手なイメージで、すごいアクションが繰り広げられるような作品だと思っていたので。ただ、メッセージ性は本当に強かった。だからこその名作なんだろうなぁ、と。

そして、最後の終わり方が最高に格好良くて痺れた!




<(2019.10.22)(book)medium 霊媒探偵城塚翡翠 (2019.12.03)(movie)ペンギン・ハイウェイ>