Marumaru's TinyPlaza

(2019.11.24)トンネルの話

子供の頃、母方の実家によく遊びに行っていて、そこで年上のお兄さん達に可愛がって貰っていました。母の実家は山や川の自然に恵まれた田舎で、当時はおばあさんが畑をしていたので、猫車に乗せてもらってお兄さん達と畑仕事の手伝いに行ったものです。

実家から徒歩数分の丘の上に線路が横たわっていて、その下に幾つものトンネルがありました。そのトンネルを抜けて畑に行っていました。畑以外にも、山や川に遊びに行く時も全部トンネルを通っていきました。

トンネルには番号が振られていて、今日は○○の畑に行くから12番トンネル、今日は川に行くから11番トンネル、今夜はお祭りに行くから9番トンネル、今日はちょっと遠くに遊びに行くから7番トンネル。違う番号のトンネルをくぐる度、目の前に違った景色が広がって、違う場所への道が続いている。

トンネルはアスファルト舗装されて車も通れるものもあれば、歩いて通るのもやっとぐらいの小さなものまで、大きさや形も様々でした。それままるで扉のようで、違う扉を開けば違う世界へ続いている。ちょうど当時発売されて、お兄さんに家で意味も分からず遊んだドラクエ2の旅の扉に近いような感覚を持っていたのかもしれない、と今になって思うんです。

今はもう移動の手段が車になってしまって、当時の生活圏なんて一瞬で走りすぎてしまうけれど、当時はトンネルの間が移動単位で、子供の足だとトンネルの番号一つ分移動するのも心が躍る冒険だったんです。

最近、用事があって母の実家に久々に行ってきました。大掛かりな区画整理を施された田舎は、当時の面影はなくなっていて、記憶の中の地図と目の前の風景が一致しない不思議な感覚です。見渡す限りの道がコンクリートに舗装され、川は細く四角い用水路みたいになり、畑だった場所には住宅が立ち並んでいました。

猫車と米袋で歩いた道も、車にスマフォで通り過ぎているんだから何もかも違うよね、と少ししんみりとしていました。

Googleマップで改めてみると、手の中に納まりそうな狭い狭い範囲の地図。当時は、この場所の秘密を少しでも見つけようと隅々まで歩き回っていたなぁ、と。

ラーミアで飛べば瞬く間のアリアハン大陸、ノーチラスで飛べば一瞬の浮遊大陸、一度便利な視点を手に入れたらもう昔と同じには戻れないかもしれないけれど、小さく弱い時代を足で歩いて、一歩一歩視界を確保していった思い出の場所の記憶は特別なものです。(唐突なゲーム脳)

先日の夕方、車で走った時に地元ローカル線が走る線路のトンネルを抜けた時、茜空の下に輝く畑の姿が目に入ってきて、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、遥か昔の自分と意識が繋がったような気がして、懐かしくてこんな記事を書いています。

惜しむらくは、この経験を次の世代に伝えることが多分無いんだろうなぁって事ぐらいでしょうか。まあ、ここに書けたからいいや。ここは、私の好きなものだけを並べた小さな広場なので。




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