Marumaru's TinyPlaza
(2025.07.22)(book)オルクセン王国史 5
『オルクセン王国史~野蛮なオークの国は、如何にして平和なエルフの国を焼き払うに至ったか~』5巻/樽見 京一郎
グスタフから関係者への贈り物とそれに伴う書簡、そして各部隊の些細な呟き等を挟み込んで、全体の雰囲気を俯瞰させるような構成は上手いな、と思う。
それはさておき、ついに総力戦が始まりました。今までは兵站と戦争に至るまでの準備、そして進軍過程がこれでもかと詳細に描かれていて、それこそがこの小説の醍醐味だと思って読んでいます。
ですが、実際に戦いが始まると、今まで備え貯え準備したものを湯水のように消費しながら戦いを続ける訳で、そして何よりも両軍の兵士達が戦いの中で数多く散っていくんですよね。戦争だから仕方ないんですが、何だろう、シムシティでせっかく発展させた街が天災で大損害を受けるようなこの虚しさは。そして、戦いが近代戦に近づくにつれて、弾の消費と共に「効率的に無慈悲に」敵兵を屠れるようになるんですよね。当たり前ですけど、戦争なんて物語の中だけで十分です。
そんな戦いの中、エルフィンド軍がまさかのゲリラ戦を展開したり、軍規に厳しく極力無駄を排しているオルクセン軍をもってしても、最後は銃剣による突撃なのかー、とか。両軍が様々な戦略で戦いを繰り広げる様が読んでいて面白かった。近代兵器による火力が増せば増すほどに、塹壕がもたらす威力は計り知れないものがあるんだな、と。大量に弾薬を消費させた時点でリソース的には勝ちだもんね。
しかし、近代兵器と魔術が両立する架空戦記を描き切っている作品なので読んでいて本当に面白い。しかもそれも、兵站に重きを置いて様々な理由を説明しながら描いてくれているのだから余計に。
最後に、激戦の合間を縫ってグスタフの寝台車に逢瀬に来てくれたディネルース、彼女が去った後もその「匂い」を感じているから前線に留まる事を厭わないみたいな描写に、グスタフ可愛すぎだろうと思ってしまった。そういう話ではないと分かっているんだけど、この二人の惚気は正直もっと読みたい。
