Marumaru's TinyPlaza
(2025.08.12)(book)りゅうおうのおしごと!20巻
『りゅうおうのおしごと!』20巻/白鳥士郎
20巻で本編が完結しましたが、長年このシリーズを追いかけていて良かった。心からそう思える内容でした。
今まで登場した数多くのキャラクターが総出演しての大団円。登場人物の中には、将棋を生業にできず、記者や解説者、小説家としての道を歩み出したキャラクターも居ましたが、皆それぞれ棋士としての熱い矜持を持っており、何より将棋が大好きです。そんな将棋好きたちによって作られ育て守られている棋界。
そんな世界の過去と今、そして未来を、幅広い世代の魅力的なキャラクター達によって、フィクションと現実が交わりながら描いてくれた素晴らしい作品でした。
ストーリーとしてのラストバトルは実は前巻の19巻での八一VS創多で終わっているんですよね。天衣によるAIの闇に取り込まれず、それを自らの糧とした八一と同じくAI世代の若き天才椚創多。
だから20巻での銀子とあいの戦いはエキシビジョンと言うか、RPGに例えるなら自分で操作するラスボス戦後のイベント戦闘のような感じでした。戦いを通じて、物語を当初描いていた場所へと着地させる為のイベント。大切な人と結ばれるための儀式。能舞台で行われた最終戦は情景が頭に浮かぶようでした。
銀子とあいが最後の戦いに向けてそれぞれのルーツを辿り、相手を知り、自分を知っていく。将棋が人間同士の戦いである以上、最終的には棋力以上にお互いの心の戦いなんですよね。最終決戦が番勝負ではなく一本勝負だったのも心の勝負に拍車をかけていました。
余談ですが、私の敬愛する棋士でありクリスチャンでもある加藤一二三先生の、大切な勝負の前は教会に赴き祈りを捧げていた。というエピソードが好きです。
なんだか本当に、それぞれのキャラクターがそれぞれの場所へ辿り着いて、物語が綺麗に幕を閉じた感じがします。全編を通じて好きなエピソードを挙げると、歩と釈迦堂さんが魂で繋がった純愛だなーとか(ロリがやたら取り上げられるけど、個人的にはこっちの方が衝撃)、桂香さんの棋士としての熱さ、供御飯さんの缶詰エピソード部分での八一に対するアプローチ辺りでしょうか。
特に最後の供御飯さんは、与謝野晶子の詩で気持ちを伝えてからの、「今なら全部こなたのせいにできやす。」の件が切な過ぎて。彼女も将棋という熱に取りつかれて憧れと恋心を混同しているのかもしれない、そしてこんな誘惑に八一が靡いてしまったら幻滅するのかもしれない、それは分かりません。が、八一もここまでされたら据え膳喰っとけよ!と。自分も大切な試合があるのに色んなものを犠牲にして八一に尽そうとするこのエピソードが狂おしく好きです。そしてその想いはちゃんと伝わり、著者近影を通じて滲み出ていたのも好き(その後の銀子の反応含め)。
そうそう、最後に20巻で言えば、捌きのマエストロこと充さんが本当に熱かった。飛車を右に動かして「俺の心が躍ればそれは振り飛車だ!(だったかな?)」の勢いが大好き。ただ、最終巻で明かされましたが今までの将棋部分監修はほぼ糸谷哲郎八段(元竜王)がされていたとのこと。だから、一見突拍子もない指し方に見えてもフィクションとは思わずに読めたのかな、と。
何はともあれ、最後まで熱量を保った本当に面白い作品でした。現実は小説より奇なりを地で行く将棋界において、時には現実に追い越されながらも、フィクションならではの観点で物語、そして将棋の未来の一つの姿を描いてくれた作品でした。この作品を通じて自分自身が将棋自体と棋界と取り巻く環境、そして棋士達の物語に興味を持つ事になりました。
そんな変化を与えてくれたこの作品に本当に感謝しています。
