Marumaru's TinyPlaza

(2020.04.01)(book)みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史

『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」』


前から気になっていた本でした。何より、一企業のシステム開発っていう一つのプロジェクトで一冊本が書ける事が大変な事だと思うんです。

ただ、タイトルにもあるように19年に及ぶ大事業の為、何か進展がある度に各種メディアで報じられていた事なので、それなりにアンテナを張って追いかけていた身としては、思っていたより新情報は少ないという感覚でした。ですが、この一大事業を俯瞰した資料としてはとても価値があるものだと思います。日経コンピュータ著ということで、IT系、金融系の専門用語が解説無しで普通に出てきますが、多分この本を手に取る人には必要ないか、分からなくても自分で調べる層である事は想像に難くありません。

個人的にはSEあるある的な書籍で語られるような、現場のデスマーチの盛り上がりというエンターテイメントを期待していた部分もありますが、方向性としてかなり経営者的な視点の書き方に感じました。システム管理部門としてのミスもあるけれど、それも含めて、組織を統括する経営側の責任なのだ、という論調です。

と言うか、現場と言っても、実際のプログラムにおいては人的ミスを極力排除する為にソースコードは完全にツールが行っていたみたいですね。それがたとえ冗長なものになろうとも、一定のルールに基づいて作成されたものであれば、メンテナスやテストの工程における労力の削減は相当なものになると思います。そうなってくると、大切なのは実装の上流工程である設計の部分。様々な取引が交わされる巨大なシステムを如何に効率化するか、日々の業務やアクシデントに対して強固な仕組みにするか、そして今後に備えたAPIを始めとした拡張性等々の重要性が語られていました。

確かに、実装における職人的な超絶技巧で部分的には高速化される部分はあると思いますが、プロジェクト全体で見ればそれは枝葉の部分であって、みずほ銀行という日本のインフラの一部と言っていい巨大システムにおいて大事なのはそこではないというのは思いました。その枝葉に拘ってプロジェクト全体のどこか一部にでも綻びが出る事は許されない、と言う覚悟なのでしょう。至って真っ当な判断ですが、個人的感情においては少し寂しいですが。

そして読んでいて一番感じたのは、コミック「監査役野崎修平 (銀行大合併編)」は、よく調べて描かれていたんだな、と。

最後に、この書籍自体が発売を延期したのは何かのネタかと。



(2020.04.02)(game)MUSICUS!

『MUSICUS!』


ゲームを通じて感じた事を上手く言葉に出来ないので、簡単に。一応、ネタバレ入りになるのかな?

このゲームを作ったOVERDRIVEってブランドは、音楽関係のタイトルを作っててたまに話題に上がる、ぐらいの認識だったんですが、数年前に新作かつ最終作を作るという事でクラウドファウンディング(以下、CF)をしているのがTwitterで話題になっていました。

で、体験版が公開されていたのでプレイしたんですが、その時点でかなりの衝撃を受けて、このゲームはただものじゃない!と思ってCFに申し込みました。そして、忘れた頃に返礼のゲームが届いたんですが、少し時間をあけてやっとこの度プレイする事が出来ました。

まず、一番に感じたのは、スタートからエンディングを迎えるまでの作中の時間経過が長い事。学生時代に音楽に傾倒して、バンドを始めて、そのまま音楽を生業にして、バンドのメンバーが変わったりしながら、時間が流れていき、人生が進んでいく中で、あれ?これどこで終わるんだ?って思いながらプレイしていました。

バンド始めて楽しくて女の事も仲良くなって終わり!じゃないんです。音楽をしながら暮らしていく中で、音楽の光の部分も闇の部分もどちらもしっかり描いていき、それでもなお辞められない音楽、そして創作の魅力(≒呪い)のようなものを描いてありました。

このゲーム、別に各ルートの終わりが今の部分じゃなくても良いのかもしれません(バッド除く)。音楽をしながら暮らしていく日々を切り取ったような物語だし、エンディングの後も当たり前のようにそのルートの生活が続いていく事は想像に難くないから。

そして、ルートによって主人公の人生が全く違ったものになるのも面白かった。音楽との出会いは一緒なのに、そこからの自分の選択で、その後の人生が全く違ったものになってしまうんですが、作中の経過時間が長い事と相まって、キャラクターの攻略というレベルではなくて、違う人生を何パターンか追体験させて貰った気分になりました。

次に感じたのは、「死」の描き方について。20年ほど前、Kanonが一世を風靡した頃、物語における死の扱いについても議論があったのを覚えています。曰く、死は物語のおけるジョーカーであって、誰しもが共感できる普遍的なものだからそれを使って泣かすのは反則だ、みたいな感じだったと思います。

このMUSICUS!でも人の死が出てきますが、泣かす為ではなくて、死は生きていれば必ず直面しないといけないもので、誰かの死があったとしてもその後の自分の人生は続いていく。生きていかなければならない。そして、普通に暮らして一定の年齢になれば、死は自分の遠くないところに存在するもの。そんな当たり前の事なんですが、ゲームの物語の中でそれが普通に出てきたのが印象的でした。

そして何より、音楽が良い。音楽に魅入られて音楽の呪いを受けながら生きているような人達を実感できるような素晴らしい音楽でした。これで音楽があまりよくなかったら物語の説得力が台無しになるところだったと思います。一番印象に残っているのは主人公たちのバンド「Dr.Flower」の初オリジナル曲である「はじまりのウタ」この歌の力は本当にすごかった。作中での扱いがそうであるように、聞いた瞬間に心を持って行かれました。

とりあえずぱっと言葉に出来るのはこの辺り。最後になりましたが、プレイして純粋にキャラクターとして気になっていた香坂めぐるのルートを最後にクリアして、個別ルートで掘り下げられた彼女を知って、余計に魅力を感じました。

とりあえず、そんな感じで。



(2020.04.07)(book)その着せ替え人形は恋をする

『その着せ替え人形は恋をする』4巻まで/福田晋一


ネットのバナー広告で興味を持って試し読みをしたと思ったら4巻まで一気に買っていました。電子書籍は欲しい時に買えるのが魅力的だし蠱惑的。と言うか、1話の引きが完璧でした。この1話を見て続きが気にならない方が難しい。

雛人形等の人形作りをしている主人公が、ひょんな事からギャルのコスプレ衣装作りを通じて仲良くなるという話なんですが、上手な日本人形を作ろうと日々研鑽を重ねている主人公が、コスプレ衣装作りを通じて、別ジャンルの「素敵」なものに触れ、その素敵な理由を解き明かし、自分が持っている人形作りの技術・知識と合わせて昇華させていく過程が本当に素晴らしい。

日本人形作りという一つの創造をずっとやってきたから経験があるからこそ、他ジャンルのもの素敵な部分を分かる事が出来、より深く理解出来るというのは、多分どのジャンルでもある事なんでしょう。

そして、この作品で一番素晴らしいのは、誰かの好きな事を決して否定しない姿勢。好きなもの、打ち込める事があるのは素晴らしい事で、好きな事をやっている姿は魅力的なんです。さらに、思い立ったらすぐにアクションを起こす行動力。興味があることはとりあえずやってみる。分からない事はその時に考えればいい。

繊細で可愛い絵柄と、コスプレという事もあって、服飾のデザインや描き方がとても素敵でした。一目惚れする瞬間に出会えるという事は本当に素晴らしい事です。

創作の魅力と意気込みをこれでもかと詰め込んだ素敵な作品でした。続きがとても気になります。



(2020.04.10)(book)スマホを落としただけなのに

『スマホを落としただけなのに』/志駕晃


映画化でタイトルを知って気になっていた作品。

タイトルの通り、スマホを落とした事から個人情報が洩れて色々と事件に巻き込まれる話なんですが、その事だけで話が終わらず、スマホを落とした事による情報漏洩は話の要素の1つに過ぎないと言うのが面白い部分でした。

メインのスマホによる情報漏洩の部分に関しては、スマホの情報からSNSや位置情報を把握して、と言ったクラッキング+ストーカー的な要素がありますが、専用ソフトを使って、キーボードをカタカタカタ、ターン!みたいな展開ではなく、ソーシャルハッキングと言うか、覗き見た個人情報を使って交友関係を割り出し、なりすましやフィッシングで情報を引き出すといった、非常に泥臭い事を行っていたのがリアルでした。

どれだけセキュリティが強化されても、所詮は人間が使う道具、堅牢なセキュリティを正面から突破するよりは、わずかな綻びから使用者自体の隙を見つけて侵入する方が簡単ですし、スマホのセキュリティを超えて、その本人自体の交友関係に侵食していく辺りが面白くも恐ろしい部分でした。

そして、スマホからのソーシャルハッキングだけでも話になりそうなのに、それを要素の一つとして、ミステリとしてのトリックの面白さ、更に最後のどんでん返しまで入ったボリューム満点の作品でした。それだけ色々と詰まっているのにすごく読みやすい。

ミステリ的な事が裏で進展しつつも、表の話はヒロインの結婚に関する恋愛話を軸に進んでいくので、そちらの方でも楽しめる贅沢さ。全体として、色んなジャンルの要素がどれに偏る事無く、どれも面白く詰め込まれていたので新鮮でした。これは即映像化の話が来るのも納得でした。

今の時代、スマホは本当に個人情報の塊なので、もし拾ったとしたら逆に怖くなるものですが、割り切って悪用しようとすれば、本当に何でも出来ちゃうなっていう怖さを改めて感じました。ただ、ちょっとフェイスブックに傾倒し過ぎかなという部分もあったんですが、実名SNSだし一番手っ取り早いのかもしれません。と言うか、自分がフェイスブックに疎いだけで、フェイスブックでやり取りをしているクラスタは沢山いますものね。



(2020.04.13)(book)出るか分からない温泉を掘りつづけてるうちに、30代になりました。

『出るか分からない温泉を掘りつづけてるうちに、30代になりました。』(4巻まで)/矢寺圭太


今ならKindleで無料という事で友達に勧めてもらいました。漫画家さんが描く日記漫画。1年分が一冊にまとまっているのが年代記みたいで面白い。

男性の漫画家さんなんですが、女性化して描かれていると読みやすい不思議。殆どが在宅での仕事の中で、日常の些細な出来事を見つけてネタに出来る感受性が創作者なんだと思いました。ただ、担当さんとの締め切りの話は描いちゃってんだろうかと少々不安になったり。

日記モノは内容自体の面白さというか、他人のプライベートをのぞき見……もとい、お裾分けしてもらっている感覚が一番の面白さだと思います。漫画家という在宅フリーランスを生業にするなかで、所謂、世間一般のリズムとは少し異なる生活の中、流れていく時間に対する寂寥感と、そんな中で気の置けない友人との交流。それをイラスト日記で面白く描いてあるので次へ次へと読んでしまう魅力がありました。

とりあえず、素人は株に手を出しちゃいけない!という教訓を得ました。




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