Marumaru's TinyPlaza
(2023.07.04)(book)腹を空かせた勇者ども
『腹を空かせた勇者ども』/金原ひとみ
新聞で懐かしい名前の作者を見かけました。新刊の広告だったんですが、『蛇とピアス』で芥川賞を受賞されたのがもう20年前なんですね。綿矢りささんの『蹴りたい背中』とのダブル受賞で世間を騒がせたのが昨日の事のように思えます。
そんな訳で懐かしさも手伝って金原ひとみさんの新作を読みました。20年も文壇で活躍されているのは、本当にすごい事だと思わずにはいられないのです。
内容を分類するのなら多分、女子高生のヒロインと彼女を取り巻く青春群像劇。現実の生活ではなかなか現役高校生との接点は無い訳で、作者の目線で描かれた高校生の日常を小説を通じて追体験出来たような気がして、読書って楽しいな、と改めて。
それぞれの登場人物が置かれている家庭環境・学校・バイト・趣味等は違います。そんな登場人物達が学生時代と言う限らせた時間の中を、コロナ禍と言う環境を受け入れながらも精一杯に走り抜けている様子が本当に眩しい。
あと、主人公の母親のキャラクターが良い味を出していました。社会通念的なルールに捕らわれず、自分の中でしっかりと芯と意見を持っていて、それに従ってバリバリ行動して働いている人。私はこの母親の考えに共感と憧れに近い念を抱くのですが、人によって好みが分かれそうな気はしました。
ただ、自分と自分に関わる人達が幸せになる道を探求する事を続ける姿勢、言葉を大切にして言葉を遣う事で自分の思想を残そうとする姿勢は本当に素晴らしいものだと思います。
この母親の言葉で印象深いものが幾つかあったんですが、もう本を図書館に返してしまったので正確なところが思い出せない。また借り直して追記します。
(2023.07.11)(book)5文字で百人一首
『5文字で百人一首』/すとう けんたろう
タイトル通り、百人一首の100首についてそれぞれの概要を5文字でまとめている本。例えば、ちはやふるで有名な『ちはやぶる 神代もきかず竜田川 からくれなゐに水くくるとは』については『空前の紅葉』と言った感じ。
人によっては短歌の奥深さは一言で表せるものではなく、その背景も含めて味わうべき。と言った意見もあるかと思いますが、短歌を5文字で要約と言うのはインパクトがあります。それがフックになってその短歌自体や背景に興味を持つ事もあるかもしれません。そして、要約ならまだしも5文字で表すのは読解力・理解力とはまた別のセンスの分野であり、この作者のセンスに脱帽しました。
そんな訳で百人一首の世界を気軽に味わえて導入には最高の本だと思いました。何より読んでいて面白い。短歌の口語訳や背景解説、時代背景のTIPS等、興味を持ったら更に踏み込んで知る事が出来ます。
この本、何が一番印象に残ったかって、ページのレイアウト構成が非常に見やすくて素晴らしいんです。1つの短歌を見開き2ページで解説しており、ポップで大き目なフォントで書かれた要約から順に目を追っていけば自然とその短歌の事について分かるという素晴らしい構成。デザインも本当に良いんです。ページも色もカラフルで短冊を眺めているような気分になりました。
(2023.07.14)(movie)君たちはどう生きるか
『君たちはどう生きるか』
全く未知のものを初めて味わう。という経験を味わう為に映画館に買いに行きました。
徹底した情報規制とプロモーション戦略で、タイトルとキービジュアル以外はあらすじも、キャラクターも、声優さんも、ジャンルも全く分からないと言う異色のジブリ最新作。映画の公式サイトも作ってないという徹底っぷりなので、普通映画を観る時は公式サイトから上映館を調べるものですが、今回は最寄りの映画館のサイトから上映可否を含めた上映時間を調べました。
普通、いくら「全く知らない」と言ってもジャンルや登場人物ぐらいの情報はどこかしらで入ってくるものじゃないですか。それが全く無かったので本当に新鮮な体験でした。
面白かった。特に印象に残った部分を箇条書き
- 今までのジブリ集大成と言う言葉がぴったりの映画。
- 食事シーンが相変わらず本当に美味しそう。パンにバターとジャムを塗って食べるだけのシーンがこんなに魅力的だなんて。鍋で煮込んでるスープとかパンとか、美味しそう過ぎてキャンプがしたくなった。
- 耳をすませばのイバラードのような雰囲気を感じた。空想の世界をナビゲーターが語ってる感じの。そこにマーニーの世界や各種ジブリ要素を加えてるような。
- 最初の警報のシーンでドキっとした。風立ちぬのような戦争もの?とか、あの掴みはすごい。
- とにかく動きがヌルヌル。色んな動きをとにかく妥協せず丁寧に描いていてジブリの映像技術の玉手箱みたい。最後の崩れる世界から脱出するシーンとか特に。
- 声優に俳優さんを使ってるのはいつもの事だけど、本当に全員俳優さんで固めたら逆に違和感が無くなるって言う逆転の発想。
- EDの米津玄師の曲が良かった。
- あいみょん誰か分からなかった。
- 作画スタッフに日本を代表するアニメスタジオの名前が連なっていて驚いた。
- あのラストの潔さは好き。
- 場面転換が多いのと唐突な展開が続いてちょっと疲れた感じ。
- 次がどうなるのか全く分からない展開で本当にワクワクした。この年のオッサンをワクワクさせる映画ってすごいと思う。
- エプロンドレスの動きが本当に素敵。
- 今の時代にこれだけのオリジナル冒険活劇を見られる幸せ。
- スタッフロールに宮崎吾朗の名前があってドキっとした。
子供には純粋に見て欲しい、大人には今までのジブリの集大成として楽しんでほしい。そんな映画でした。
宮崎駿(≠ジブリ)の集大成。シン・エヴァ(≒庵野監督)の時に感じたように、何十年も影響を受けているものがきちんと完結してくれた事が嬉しい。作品内容よりも作者が自分と向き合って区切りをつけたような作品を世に出す事で、追いかけているファンも解き放たれるものがある。
正直、ストーリーはよく分からない。解釈が大変そうだし、ストーリーと言うか宮崎駿監督の頭の中にある概念のようなものを映像化した世界だと思っている。
映像は本当に素晴らしかった。今までの色んな作品に使われていた宮崎駿エッセンスとでも言うものを余すところなく発揮している感じ。ジブリ作品以外にも、名探偵ホームズやカリオストロも含めて。
崩れる回廊から脱出するような分かりやすく盛り上がるシーンはもとより、食事、動物の群れ、階段の昇降、街の風景、そんな何でもない様なシーンが全てヌルヌル動く動画と共に魅力的に描かれていた。他の作品だと最終クライマックス見せ場で描かれるような、もといそれ以上の情熱が全てのシーンに注がれていた。
だから、宮崎駿総集編としてストーリーの事は考えず、ただただ目の前に繰り広げられる映像を楽しんでいるうちに映画が終わった、そんな感じでした。
(2023.07.19)(movie)インディ・ジョーンズ 最後の聖戦
『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』
小さな町で生まれ育ったもので映画と言うものにあまり馴染みが無く、映画というものはたまに市民会館にやってくるもの、という印象でした。そして市民会館に映画が来る時には学校の通学路に割引券を配るオジサンが現れる。そんな環境で育って、実際に市民会館で『幽幻道士』等を見た記憶があります。
初めて自分で観に行った映画は『ストリートファイター2』友達と一緒にバスに乗って隣町に行って、大通りの外れにある、普段はピンク映画を上映している薄暗い映画館で観たのを覚えています。春麗のシャワーシーンは今でも瞼の裏に。
で、そういうしているうちにファンタジー小説絡みでスレイヤーズのアニメにはまり、時を同じくしてエヴァのブームがやってきました。そうなると、当然映画も観に行くわけで、その当時は映画≒アニメみたいな印象でした。
そして大学に入学し一人暮らしをするようになり、サブカルやセカイ系(当時はまだこの言葉無かったかも)に傾倒した私は、近所のレンタルビデオ屋さんで恋愛モノを中心に映画を観る事になります。オードリーヘプバーンの可愛さに魅了され、風と共に去りぬ、ゴットファーザーシリーズ、プリティーウーマン、Dools(北野作品)、ユーガットメール(これは吹替の関係)、秘密の花園、etc……。そんなのを観てる間に新海作品やKey等にはまっていった感じになります。
そして、地元に帰ってきてからは映画館にもちょこちょこ行くようになり、割と色んなのを観てたんです。バックトゥーザフューチャーとか、コマンドー、ランボーの4以降もこのタイミングで観ました。
そんな変遷を辿ってきた事もあり、アクション映画の名作って殆ど見てなかったんです。金曜ロードショウで何度も放送していたらしいインディ・ジョーンズシリーズも然り。
そんな折、友達がインディ・ジョーンズの最新作を観たという事からインディ・ジョーンズの話をしていて、「私、このシリーズ全く観てないんだけど、しょっぱな観るならどれがオススメ?」って聞いたら、この最後の聖戦をオススメして貰いました。曰く、ストーリーが繋がってないからこれだけで楽しめるのと、完成度が高いから、と。
それならばと、PrimeVideoのレンタルに入ってたので早速観てきました。いやーネットって便利ですね。
で、感想なんですが、最初から最後までワクワクしっぱなしの笑いっぱなし。
何かね、小さい頃から親しんで頭に描いてきたRPGの世界がそこにあるんですよ。順番ぐちゃぐちゃですが、自分の言葉で言うなら「外国人が本気で作った洋風風雲たけし城」みたいな。
多分こっちが原点だと思うんですが、もう本当に色んなところで見たようなシチュエーションてんこ盛り。何かフリがあれば間髪入れずにそれを回収して、危険には全部飛び込んで行って。ちゃんとがっつり装備じゃなくて、スーツ姿のまま行き当たりばったりで巻き込まれてるところがマスターキートンっぽくて(これも順序逆)。
もうね、物語の主題からして「聖杯を探しに行こう!」ですよ。そして教会を改装した図書館に行って、数字路ヒントに探していたら2Fから見下ろした床に大きく「Ⅹ」の模様。ここだ!!床を壊したら地下への階段。潜った先には戦士の墓……もー、なんなのこれ!最高!!
いやー、こんなにワクワクする映画初めてでした。この年になってこれだけ興奮するんだから、これを小学校の時とかに観たら、現実と小説と漫画とゲームの世界が全部繋がるような感覚になったんじゃないかと多みます。
そして、事あるごとに流れるテーマソング(と、そのアレンジ)、最後には馬にまたがって夕日の砂漠に向かって行く……。温故知新とはよく言ったもので、自分の好きなジャンルについては古典からの歴史を踏まえて認識して語れますが、どのジャンルでもそう言った流れは当然あって、ジャンルを超えて響き合うものというのもあるので、古典と言うか、昔から皆が良いと言っているものにはそれ相当の理由があるのだと改めて感じました。
次点としてオススメされた「失われたアーク《聖櫃》」も次は観よう。
(2023.07.23)(movie)レイダース/失われたアーク《聖櫃》
『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』
先日、最後の聖戦を観てすっかりインディージョーンズにはまってしまったので、続けて第1作目を観ました。
後で知ったんですが、この映画って制作指揮:ジョージ・ルーカス、監督:スティーヴン・スピルバーグだったんですね。何その今では考えられない夢の競演。
しかし、一作目から本当に面白かった。ワクワクしっぱなし。最後の聖戦に比べるとコメディ要素より冒険・探索要素が強めでした。足元の石を踏んだら矢が飛んできたり、宝を盗ったら大きな岩が転がってきたり、蔦に掴まって大穴を越えたり、今では定番となっている表現の原点を見ているようでした。もう本当に僕らが子供の時に親しんだRPGやファンタジー小説の実写版そのもの。画面の向こうや活字の向こうに広がる世界に想いを馳せていましたが、それが実際に目の前に映像で展開されている感動と興奮は筆舌に尽くしがたい。
感想を書こうとすると「~~な展開すごい」って事ばかりになってしまうんですが、実際そうなので仕方ない。迷宮の地下に蛇やコブラがわんさか居たり(昔ってコブラがよく出てきましたよね)、壁を壊して隠し通路を見つけたり、穴から差し込む陽光がメダルに当たると街のジオラマの中の宝の隠し場所が指し示されたり、繰り返しになりますが、ほんっとうにRPGの世界なんですよ。こんなんワクワクするに決まってる。
で、相変わらず伏線の張り方が綺麗なんですよね。ヒロインが酒の飲み比べでごろつきに勝つぐらい酒が強いって描いておいてから、敵に掴まった時に相手を酒を使ったハニートラップを仕掛けたり、そのシーンで敵に真っ白なドレスを贈られ、そこでインディが助けに来てドレス姿のまま逃げて冒険を続けるんですが、純白のドレスのヒロインと一緒にダンジョンを攻略するという絵面が本当にヒロイックファンタジーのそれですよ。行動の邪魔になってスカートの裾を破るところまでがお約束。
と言うか、アメリカ映画って西部劇な浪漫が格好良さの基本として根付いてるんだなって思うんですよ。昔に関係を持った女性が僻地で酒場を営んでいるところにふらりと現れる主人公、そして何だかんだで主人公が好きなヒロイン。そして、白い馬に乗って荒野を駆ける二人。その辺りの表現って日本人が武士道の中に格好良さを見出しているような浪漫的感覚なのかな、と。最近見たトップガン・マーヴェリックでも同じような事してましたし。
そしてクライマックスのシーン。封印されていた函を開くと死者の魂が解放されて辺り一面火の海になる。なんかこの説明だけだとガンダムのラストでもありそう。何と言うか、80年代ってオカルトの流行・影響が今よりずっと強かったような気がします。人知を超えた存在を描く時に、科学やコンピュータではなく、超常現象やオカルトの方が説得力があったのかもしれません。このクライマックスシーンの表現は制作された年を考えると本当に最先端の表現だったんだと思います。何となく昔の特撮を思い出す表現でした。
いやー、本当に最初から最後まで面白い映画でした。冒険と浪漫とほんの少しのお色気。エンタメアクション映画の金字塔になる作品は時代を経ても色褪せないと思い知りました。次は魔宮の伝説だ!