Marumaru's TinyPlaza
(2023.05.02)(book)瓶詰の地獄
『瓶詰の地獄』/夢野 久作
Twitterの「好きな鬱小説」9位の作品。
鬱小説と言うか、3本の瓶の時系列はどうなのかが読者の判断に委ねられているからモヤモヤする。「瓶の順番」と言う視点で考えてる時点で作者の術中なんだろうな。そもそも瓶の内容が現実なのかどうかも分からないし。
ただ、結末だけは冒頭に事実として確定しているので、どう足掻いても最後は……。と言う意味では鬱になる。
理性の象徴たる聖書を燃やして妹のもとに向かった時、文化の象徴たる住み家も一緒に燃えてしまったというのが印象的。
3つの手紙が全て事実だったと仮定すると、3→2→1が話的に綺麗なんだけど、そうすると鉛筆の芯の件が整合性取れない。そもそも、整合性が取れないように出来ているんだろうし、1本目の瓶(の手紙)に出てくる船も現実なのか幻なのか、こうやって考えれば考える程に思考がグルグル巡るのが作者の思うつぼなんだとは思う。
シュレーディンガーの猫よろしく、重なり合う物語を瓶の順番を使って読者の手で確定させて下さい、っていう話なんだろうな、と。だけど、結末は確定しているので、せめて途中の物語は確定させないまま数多の可能性と一緒に島の中でそっとしておいてあげるのが良いのかもしれない。
(2023.05.16)(book)そして誰もいなくなった
『そして誰もいなくなった』/アガサ・クリスティー(青木久惠 訳)
往年の名作を今更。
トルネコやシレン、各種ローグライクで育った世代が今になってテキストベースのRogueに触れて、当時と同じ新鮮さと楽しさを感じられるのかという問題はあります。
ただ、やはり原点が頂点。自分が今までに触れた数々の作品がこの作品に多大な影響を受けている事を再確認して、原点ならではの何も無駄のないクローズドサークルもの、見立て殺人ものの妙を味わう事が出来ました。
しかし、改めて思うのはこの作品が書かれた1930年代と言うのはミステリの舞台として最高の時代ですね。館(そもそも館が普通に現存する時代)に集められた人達の前で各人の罪状を読み上げる音声。それがレコードに蓄音機のスピーカー。それだけで雰囲気が盛り上がります。今だとスマフォなりICレコーダーに録音された音声になるんでしょうし。
これを当時に読んでいたら本当に衝撃だったんだろうなぁ。でも、この作品があったおかげでその後に続く作品が色々登場して、自分はそれを享受出来ている訳で。
最後に。本当に綺麗な構成だと思ったんですが、今の自分の感覚で読むとヴェラの最後にちょっと違和感を覚えました。ただ、そうしないと物語が終わりませんものね。