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(2022.02.21)(book)革命テーラー

『革命テーラー』/川瀬 七緒


母に勧められて読んだ本。この著者の作品は『法医昆虫学捜査官シリーズ』の最初の巻を読んだのですがあまり印象に残っていませんでした。が、この本は本当に面白かった。

自分の覚書として記すので他作品の引き合いが多いです。

この作品、自分の好きな要素の塊です。

『ガンダムビルドファイターズ』に代表される、自分の「好き」を貫く要素。矢沢あい『パラダイスキス』、嶽本野ばら作品に代表される、美しい装飾に対する意識、そして社会的に好奇の目に晒されても自分が美しいと信じているものを纏う覚悟。そして、鈴木みそ『限界集落(ギリギリ)温泉』、『サクラクエスト』に代表されるような町おこし要素。これらが上手い具合にまとまって盛り上がる物語になっています。

一番面白かったのは町おこしの部分なんですが、気概を持って新たな事を成そうとする主人公側と事なかれ主義で決まりを作る役場側の対立が興味深いです。作中でも言われていますが、何かをやる時にまずガワから作ると、その中に納まるようにしかならないんです。

お偉いさんが補助金を作ったとしても、使う側に熱や気概が無ければ、その補助金枠を、お金を使う事に終始し、そこで満足して終わってしまう。箱モノが出来る事になったとしても、まず箱モノを作るという話から始まると、その施設を使って何をしようかという後付けになってしまう。

そうではなくて、本当にやりたい事があるのだったら、国や役場の援助に頼るのではなく本当にやりたい仲間を募って、その中で熱を高めていけばいい。確かにその通りです。

しかし、実際問題として、やる気のある人をどんどん巻き込んで勢いで進めてしまうと、最初の一発目はいいかもしれないけれど、継続していく為の問題が色々と出てくるのは目に見えています。この物語では作者も語っているように、成功した部分で終わらせているので、この町がその後どうなったかは分かりません。

ただ、一旦成功を収めてその後の継続の心配何て言うのは、成功してから考えればいい話で、そもそも成功したり、事を成せないのであれば、その先の事を考える機会すらありません。

つべこべと理屈を並べて、机上の空論で土台を作る暇があったらとにかく何かやってみろ。という事なんだと思います。やってみないと何も生まれませんものね。生まれたものが成功か失敗かは分かりませんが。

町おこしの部分で少し思ったのが、新しい事を成そうとしているのが、主人公の高校生グループと街の商店街に居る現役をリタイアした老人達なんです。子供たちのアイディア・行動力に、老人達が持っている熟練の技術を併せて新しいことをやっていく展開。

そして老人達の技術は継承しようにも、国に頼ると審査や認定や書類が煩雑でとても出来ないから、本当に必要としている人に直接教えるに留める、という説明も作中で語られていました。

物語が徹頭徹尾、国や権力の枠組みに従っていては実を残すことが出来ない、だからそういうところに頼るのはやめた。という展開。だから、老人達が持っている技術を高校生達のアイディアに乗せて花開かせる。それで町を復活させる。

話としてはすごく熱い物語なんですが、高校生の主人公達に感情移入するには私自身が歳を重ね過ぎていて、枠組みを作っている役場の人間の気持ちが分かるようになってしまっていて、そこが少し哀しかった。

町を盛り上げるには熱い想いが必要……と考えてしまう時点で自分には熱が無いのかもしれません。そうではなく、熱い想いを持った人が大志を胸に歩を進めれば、自ずから町は変わっていくものだから。

とても面白い物語だった半面、現状の実労働者達では町を変えて興すのは無理だよ、と言われたような気がした一冊でした。




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