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(2025.04.11)(book)一次元の挿し木

『一次元の挿し木』/松下龍之介


第23回『このミステリーがすごい!』大賞文庫グランプリ受賞作。書評で知って読みました。

いやー、面白かった!

あらすじを読んだだけで引き込まれ、文章も読みやすく、物語の仕舞い方もとても綺麗。有名賞の受賞作は伊達じゃないと思わせてくれました。解説を読むと、自分が魅かれたこの3点は全て解説にて書かれていました。やっぱりみんなそう思うよね、と。

『ヒマラヤ山中で発掘された二百年前の人骨。大学院で遺伝人類学を学ぶ悠がDNA鑑定にかけると、四年前に失踪した妹のものと一致した。』このあらすじのワクワク感たるや。内容が気になって思わず本を手に取らせる魅力があります。作者は意図的にあらすじだけで読者の興味を惹く物語を構築したという事なのですが、まさに作者の狙い通り読む前から術中に嵌ってしまいました。読んでいる時も、徐々に明かされる事実がどう物語を動かしていくのかが気になりながらページをめくっていました。

文章が本当に読みやすいんです。私の拙い語彙で説明するのなら、理系の文章?伝えたい事がすっと頭に入ってくる簡潔で明瞭な文章でした。細かく章が分かれており、それぞれ異なる時間と登場人物の視点で語られるのですが、どの時代の誰の視点かが明記されており分かりやすい。ミステリでよくある、敢えて時間と発言者をぼかすような事はやってないです。

そして登場人物が比較的少ないのが好き。クローズドサークルものだと特に登場人物が多かったりしますが、個人的には必要最小限の登場人物での練りに練られたストーリーと伏線回収が好きです。この作品では、大きく広げた風呂敷を最後に綺麗に畳み切ってくれたのがとても気持ち良かった。

物語ですが、幼少期に出会った一人の少女によって人生を変えられてしまった男の情熱と執念の物語といった感じ。良いね、好きなやつです。そこに入ってくる遺伝子とDNA二重螺旋の肉付け。読みながら何となくキーになる要素は分かるんですが、それらの要素をどのように使って物語を進めていくのか、読みながら期待に胸が膨らみます。

強いて言えば、最後の展開が少しご都合主義な感じもありましたが(薬、ラストバトル、ヒロインの脱出劇、等)、それでも張り巡らせた伏線を回収しながら綺麗に物語を結んでくれる事の方が余程大事です。

最後に、ミステリでよく使われるテーマではありますが、新興宗教とその教祖の存在と言うのは蠱惑的かつミステリアスで、一種のファンタジーとして魅かれるものがあります。

p.s.私信ですが、読みやすく明瞭な文章、そして物語の作り方に森博嗣さん味を感じました。それは物語の色付けや方向性的な部分ではなく、賢い人が物語を魅力的に伝える為に書いた、という部分で森博嗣さんに近い何かを感じたのです。




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