Marumaru's TinyPlaza

(2013.08.01)(movie)言の葉の庭

『言の葉の庭』


「movie」タグを入れるかどうか迷ったけれど、劇場公開されているので映画扱いで。

この作品、大都会岡山では劇場公開が無くて枕を濡らしたものですが、ニコニコ動画で有料配信されている事を知ったので早速観ました。

2011年の「星を追う子ども」以来の2年ぶりの新海誠オリジナル作品。「ほしのこえ」から数えると10年以上の月日が経っているんですね。「ほしのこえ」では単色ディスプレイの携帯電話だった通信端末が「言の葉の庭」ではスマートフォンになっていた事に時の流れを感じずにはいられませんでした。

以下、「言の葉の庭」の感想と言うより、新海作品全般について書いていきます。ネタバレと言うか、今までの新作作品を知っている前提で書いていますのでご了承の程。

映像

相変わらずの綺麗としか言いようのない表現。新海さんの表現は一見写実的なんですが、本当は現実の風景にある種のバイアスをかけて「現実よりも綺麗な世界」を描いているんです。光も、雲も空も、電車が走り過ぎる線路も、駅前の街並みも。現実では写し難い角度から現実の風景を切り取って、そこに光や空を上手い具合に調和させて、ノイズを取り去って、シチュエーションとして映える現実の街並みを作り出しています。これは良いとか悪いとかじゃなくて、そういう作風。

個人的にこの作風自体は前々作の「秒速5センチメートル」で映像的には極まったと思っているんですが、今作では作品のテーマにも絡んだ雨、そして雨粒と水の波紋の表現が素晴らしかったです。空と地面の間、そして自分と風景の間が雨と言うヴェールに覆われて、普段見ている景色がまるで別世界のように見える。雨が降っている間だけは何が特別な事が起こる世界に迷い込んでいる。そんな雰囲気が表現されていたように思えます。

長さ

新海さんの作品はどれもテーマを伝える為の作品だと考えています。「言の葉の庭」の46分と言う時間はテーマを伝えるにはちょうど良い長さだと思いました。伝えたいテーマの為に作品を作ると言うのはあるべき姿なんでしょうが、贅沢ですよね。

振り返ってみると、「ほしのこえ」の25分と言うのは本当にテーマ、そして新海さんのエッセンスが濃縮されていました。だから伝えたい事は伝わるんですが、「何故そうなのか?」と言う部分が大胆にカットされている為に「セカイ系」と言われるのかもしれません。

続く「雲のむこう、約束の場所」91分。これ、個人的にはあまり好きじゃないんです。と言うのも、伝えたいテーマがあるのに設定やバックボーンを過剰につけてあまり上手くまとまっていなかったような気がしたので…。ちゃんと観てないからだ!と怒られるかもしれませんが、前半~中盤にかけては正直、映像を見せたいが為の映画になっている気がしました。

そして、「秒速5センチメートル」の63分。これは3部作なんですけど、1部の28分で起点、と言うかキッカケを作り、2部の22分で一度距離を置いて冷まして、3部の15分、山崎まさよしの「one more time one more chance」の音楽に乗って流れる映像部分が全てだと思っています。ミュージックPVにしてもMAD映像にしてもそうですが、映像と音楽を組み合わせて表現すると媒体の相乗効果によって伝えたい事が心の素直に入ってくる気がします。

最後に「星を追う子ども」の116分。これは…冒険(そのままの意味で)してますしね。

テーマ

上で何度もテーマが、と言う言葉を繰り返していますが、私が考える新海作品それぞれのテーマは次の通りです。

  • 「ほしのこえ」…時間と距離を越えて伝わる想い
  • 「雲のむこう、約束の場所」…かなえられなかった約束
  • 「秒速5センチメートル」…初恋を引きずったまま生きる
  • 「星を追う子ども」…喪失を乗り越える為の旅立ち

基本的に、新海作品は男性視点で男性の一途…と言うと聞こえの良い想いをテーマに作品を作っている気がします。青春の甘酸っぱさ、片想い、届かない想い。そんな「恋に恋する」ような世界を描いているんです。「キミが居ない世界になんて意味が無い」的な。だから、自分を含めた、オタクの男性方に非常に受けがよろしいんではないかと思います。

この「恋に恋する」と言う意味では少女マンガ的な気もするんですが、少女マンガとはちょっと違う気がします。ちょっと古い概念かもしれませんが、「白馬の王子様が自分を連れて行ってくれる」のを期待するのが少女マンガ、「自分はこんなに相手を想っている、だからこの想いはきっと届くんだ」と言うのが新海作品。実際は想っているだけで届く事は思考が漏れていない限りあり得ないし、一途な想い故の行動と言うのはしばしばストーカーと評されたりしたりするような現代社会ですが。

「言の葉の庭」について

なんだか回り道してしまいましたが、やっと今作の感想。

15歳の主人公が27歳の年上女性に寄せる思慕。といった内容。年上の女性は良いですね、ファンタジーですね。…と思いながらも、年上と言う設定の27歳女性が自分より遥かに年下と言う現状にショックを隠せずに見ていました。多分、10年前に見るともっと違った感想になるんだと思いますが、時の流れは残酷です。

今作では、ヒロインが自分の感情・考えをちゃんと伝えているので、お互いの意思疎通が成立し、なおかつハッピーエンドなので非常に後味が良いです。今までは、自分の中に想いを溜め込んだまま、何らかの喪失感を抱える主人公。と言う、感情移入はしやすくとも非常にもやもやする設定だったので、ちゃんと想いを伝え、それに対する答えが返ってくる展開と言うのは、変な言い方ですが真っ当な恋愛をテーマにした作品と言えるのではないでしょうか。

だからと言って、新海作品らしくないかと言えばそうではなく、美しい世界・シチュエーションが言葉以上に想いを伝えている繊細な作品だと思います。

後、27歳と言う(主人公から見て)年上の先生役と言う役で新境地を開いた花澤香菜さんの演技も見所の一つです。案外こういう日常に存在する普通の役と言うのは、あらゆる面でデフォルメの効いた最近のアニメの中では見かける事が少なく、とても新鮮で花澤さんの新しい魅力に気づきました。

自分の感想を書き出したので、他の人の感想を見ながらもう一度見返してみようと思っています。他の人の感想が楽しみです。




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