Marumaru's TinyPlaza
(2024.10.14)(book)夜しか泳げなかった
『夜しか泳げなかった』/古矢永 塔子
面白かった。読み終えた後にタイトルが物語を如実に表していて綺麗だなぁ、と。所謂「余命モノ」と言われるジャンルなのかもしれませんが、ジャンルで括るのが勿体ない作品。
余命宣告された少女が登場する煌びやかな創作物語、そんな飾られた世界の下で繰り広げられる泥臭くて拙い人間模様。でも、そうやって過ごしてきた時間の記憶こそが、その輝きこそがかけがえのない青春そのものなんですよね。
突如として世に表れた一冊の小説を軸にして、1人の少女と2人の少年の人生と想いが交錯する物語。構成がしっかりしていて、最初に覚えた違和感を最後にいい意味で伏線として回収されるのは気持ちいい。
一昔前に流行した「余命モノ」に対するアンチテーゼな部分もあって、今の青春小説は色々と大変だと読みながら思っていました。僕らの等身大の青春感みたいなものがとてもよかった。だけど、そんな日常の世界を輝かせてくれる限られた時間のきらめきがとても愛おしいのです。
全体的に透明さや爽やかさのようなものを感じさせる文体で、青春系ラノベみたいなものと一般小説の間のようなイメージでした。そして、とても心地よい読後感でした。高知の田舎っぽさの表現や少しだけ登場した瀬戸内にも親近感を覚えました。
p.s. この感想を書くにあたり、どうにも考えを言葉に出来ず書きあぐねていたんですが、後から作者のプロフィールを見て腑に落ちるところがありました。
青春を描いている作品なのに、いい意味で妙に構成がしっかりしていて完成されていると感じたのは作者の積み重ねた年齢と人生経験によるものだったのだと。そう考えると『VRおじさんの初恋』のようなロスジェネの為の物語なのかもしれません。
そして、目に見えるものだけを全てとせず、時間と距離を越えて想いを様々な方法で伝え暖めるような表現にも納得しました。
余談ですが、2000年代にはMMO等でアバターとして広まった概念は、現在に至りVtuverという形で浸透していったのかもしれません。好きな外見や声でなりたい存在として振る舞う。その中に居るのは一人の人間で、そこに在るのは一つの魂です。